【そらる】吸血鬼、飼いませんか。/白雨 ページ28
事の発端は半年前の夏、良心に路上で倒れていた人を助けた事がきっかけだった。
「だ、大丈夫ですか?!」
「う、……」
倒れていたのは起こすまで気づかなかったけどそれはそれは顔の綺麗なイケメンで、私は戸惑いながらも彼の首に手を回して軽く体を起き上がらせた。
そして、その場で救急車を呼ぼうとスマートフォンを取り出した時、急に起き上がった彼がガバッと私に抱きついてきて、その反動で私が下敷きになる形で床に倒れ込んだのだ。
馬乗り状態の中で、私はもしかしてこれ嵌められたのでは?!と焦っていたが、それは次の瞬間の男性のお腹の音で掻き消された。
「お腹、空いた……」
「は、え?」
「もう、死にそう……何日食べてないか分かんない……」
「え、ちょっとぉ?!」
そのままガクッと力なく覆いかぶさってきた彼に私は焦る。
いやさすがに成人男性に覆いかぶさられたら起き上がれないですけど?!
「あのー……」
「ぁ、……すみません……急に、抱きついちゃって……」
「あ、いえ。えと……お腹すいてるなら、私の家来ますか?簡単な料理だけなら作れるので」
まぁそんな感じで、お人好しな私は初対面の男性を家にあげる事となり、そして事件は起きた。
部屋に入った時、明るい場所で見た彼の瞳は先程まで黒水晶のような透き通った黒だったにも関わらず、真っ赤な柘榴色に変化していたのだ。驚く私なんて気にかけること無く、彼は私の肩を掴み何だか苦しそうな表情を浮かべた
「っ?!」
「はーっ、はーっ、」
怖い、なんて思ってしまった。
自分で家に上げたくせに、自業自得なくせに、そんな事を思ったなんて、どれだけ自分を偽善者にしたいのだろうか。助けなければ、こんな事にはならなかったのに。
無意識のうちに後退りして、私は彼から逃れようとした。けれど、それもやはり無力だったのだろう。
「ごめ、なさ……っ、も、我慢できない……っ」
「え……?」
聞き返しても返事はなく、その代わりに首に顔を近づけられ、直後首筋にプツリと針を刺されたかのような痛みが広がった。思わず彼の着ていたシャツをぐっと握ってしまう。
なに、これ……っ、痛い……!!
「ん、はぁ……っ、ぢゅ」
「ぅ、や……」
血が逆流するような、そんな気持ちの悪い感覚が身体中を駆け回り、すぐに腰は砕けてしまった。
そして、首から顔を離し、鋭く伸びた八重歯から滴る真っ赤な血を舐め取りながら、目の前の彼は言う。
「……吸血鬼、飼ってくれませんか、」
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