【#コンパス】鳥籠の元天使【桜華忠臣】 (ページ5)

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桜華｢A、か｣

筆に私の名を書き留め、こちらに目を向ける。
その目付きは不満の色を含んでおり、こちらに手を伸ばしていた。

桜華｢我の前でそのような顔をするでない｣

『あ、すみません！』

深く頭を下げて、返事を待つ。

そうだ。
客の前であんな顔をする遊女は失格だろう。

その後の返事はなく、ただ頭に大きな手が乗るだけだった。

桜華｢普通の見習い遊女ならここで己の感情を出すらしいが。お前は違うようだな｣

返事があるまで、自分の感情を出してはいけない。
話の長い先輩がいつも言う言葉。

吉花独自のルールらしい。

桜華｢——ふむ。よかろう。Aよ、送ってくれるか？｣

送る、というのは男が帰ることを指す。

男は私の返事を待つこと無く、手を引っ張って座敷から出ていった。
私の後ろに彼らが付き添う。

現金を私に持たせ、羽織を羽ばたかせながら出ていった。

桜華｢また来る。遊女よ、我と共に過ごせた事を感謝するが良い｣

後ろに付き添っていた彼らがどこからか傘やら扇子やらを取りだし、男の周りを踊り回っていた。
その光景に少し頬が緩み、通りかかった先輩に｢風邪か？｣と心配された。

店を出ていった男は何食わぬ顔で彼らの一人に

桜華｢あの女について調べよ｣

と小さく呟いた。