燐寸22 ページ23
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「待ってください、放火魔って＿」
人虎が立ち上がり距離を取る。
誰から？
私から。
「言ってなかったのか、太宰」
「だあってぇ、放火魔であると知られたくないんでしょ？」
何故か嬉しそうに言う。
約束を守ってくれているのは嬉しいが、其れ以外の心情も透けて見えるのは如何云う事だろうか。
「まぁ…うん。私は何処かの爆弾魔とは違うからね」
「何処かって身内だろうが手前は」
「別に嫌いじゃないけどね。私だって興が乗れば彼のテンションで導火線に着火fireぐらいするもの」
あぁ、そう云う意味じゃないって？
完全に恐ろしいものを見る目に変わってしまった人虎に肩を竦める。
「先に伝えておこうか。今回の連続不審火、私にアリバイはない。被害現場は一通り見たが、確かに私なら犯行は漏れ無く可能だよ」
「犯人は自分だと言ってるんですか」
「私が犯人でも不自然さはない。寧ろ自然なくらいだ」
端から見ればの話だが。
「だから解決する為に私を捕まえても良いよ。そうなった場合も恐らく事件は終わるからね」
「A」
そんなことは許さないと睨んでくる中也に笑う。
「何、本気を出せば瞬きの間に終わる事件だよ此れは。其れでも泳がせているのは、私を手に入れられる絶好の機会だからだ」
だから放火魔の名を捨てよと
「太宰、探偵社は私をどうするよ？」
立ち上がり、伸びてくる中也の手をすり抜けて近付く。
「…A」
「久しいね、また君に会えるとは」
暗くてよく表情は見えないけれど、其の綺麗な瞳が開かれて私を見ていることは分かる。
「天下の名探偵が立案したと云うことは、やってくれるんだろう？」
「…乱歩さんに言われたからじゃ」
「どちらでも良いよ」
見えないのに、何故か傷ついたような顔をした気がした。
光の道に進んでも君の本質は変わらない。
泥々と深い闇の中、永遠に孤独のまま。
其処で眩い光を浴びれば己の闇の濃さに気付いているのだろう。
「人虎くん。君が解決して呉れると言うのなら託そう。私が犯人でない証拠に真犯人を見つけ、連続不審火を止めて欲しい」
「僕が、マフィアの貴女を救うんですか」
「……ねえ、其れぐらいで救えるとでも？」
太宰に選ばれたからって調子に乗るなよ。
「期限は明日の日没まで。さあ、開戦だ」
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作者名：梦夜深伽 | 作成日時：2020年10月28日 0時
