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第38話 中原side ページ40





彼女の思惑通りに君は此処にいる
無防備に背中を晒して去って行った太宰の言葉が、脳内を反芻する。

ちゃんと最後まで読んできたのかい
殺風景なAの部屋。

机の上の紙の束と、一枚だけ別にされた紙。

「オレンジペコの美味しい淹れ方? ……今日の予定、連絡事項、修繕糸の手配、」

機械で打ち込まれたかのような均一な文字の羅列。

彼奴がいつも使う銀盆に茶の一式も用意してあった。

逃げると決めていたかのような内容に、腹が立って飛び出したのは事実。

太宰の笑みを思い出して冷静になる。

「…厭、先ずは彼奴を探し出す」

其の為に。

此れは太宰の考えじゃない。

俺が俺の意思ですることだ。

ゆっくりと手を伸ばし、紙を裏面へと返す。

「………なんだ、何も書いてねェじゃねェか」

拍子抜けした。

表面をもう一度読もうとして、すっかり暗くなっていたことに気づく。

「あ? 電気壊れてンのか?」

仕方がない。

幸い月が明るく、窓際なら十分照らされる。

歩みを進め、紙を何気無く翳したところで。

「………!」


ノックの音に立ち上がり、直ぐ様出迎えに立つ。

「中也、見付かったかえ」

「未だ行方不明です」

姐さんが憂いを帯びた表情を袖で隠す。

「そうかえ、(わっち)の手は要らぬと未だ申すか?」

「其の件で話が有ります」

入ってきた姐さんは直ぐに気が付く。

「此の匂い…」

「彼奴の冷やしていた水出しの茶です。姐さんに出す時には温めて出せと」

書いてあった、と言い終わる前にもう口をつけて飲んでいる。

「…して、其の書いてあったと云うのが若しや」

「置き手紙の裏面です」

夕方まで走り回って戻った頃に丁度読んでいるでしょう、と云う文から始まった月光のもとで読める手紙。

姐さんは最後まで目を通して、綺麗な所作で考え込む。

「金平糖は引き取りに来るから其のまま、とは」

「自分から姿を表すと」

「其れを自分の机上に残して行ったか。中也が一人、探しに来ることを見越していた様じゃの」

此れをいつも用意していたのだろうか。

扉を開けたら其処に立っていないだろうか、と考えが巡る。

「月も隠れてしまったの。勝手に灯りを点けるが、良いな」

「姐さん、其れは呼び出しのベルで」

コン、コン、コン…とノックの音が3回。

「………今」

姐さんと顔を見合わせる。

「今、」



貴方の部屋の前にいるの



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梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時

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