第39話 ページ41
・
ゆっっくり、ゆっっくりと開いた扉から顔を出した中也が、死人でも見たかの様な表情で此方を見てくる。
「………」
「………」
暫し見つめ合うこと、体感にして数分。
「
「手前……」
「申し訳ありません。太宰さんから怖い話が、特にメリーさんが好きだと聞いて実践しました」
正直、気付かれずに中也の背後に立てる自信はない。
背後に立つなと命令もされているし、丁度良いと思ってやってみたがお気に召さなかったらしい。
「嘘なのは気付いてましたよ? 少しは笑って頂けるかと思ったのですが_」
漸く事態を飲み込んだらしい。
一歩、退くより速く中也が距離を詰めてくる。
まるで初めて会ったあの時の焼き直し。
そう、二度目となればもう余裕だ。
半身になって避けて、狭い廊下を走る。
「待ちやがれッ!」
「おー怖い」
階段を数段飛ばしで駆け上がる。
飛ぶと浮遊している時間が勿体無い。
体を低く、振り返らず音だけを聞いて走り抜ける。
「…Aさん?」
「芥川くん!」
芥川くんに名を呼ばれるのは久し振りな気がする。
私がいなくなったことは伝えられていないのだろう。
全力疾走の私を不思議そうに、と云うより何を可笑しなことを、と云うように眉間に皺を寄せている。
「芥川ァッ! 其奴を捕まえろッ!」
「鬼は触れてから増やすルールですよ!」
「はぁ…鬼?」
中也の声に厳しそうな表情を一瞬私に向けたが、私の楽しそうな声に困惑したように構えを解く。
「誰が手前と増やし鬼してるッ!」
「何もメリーさんでそんなに怒らなくても!」
「めりー?」
芥川くんが可愛い。
戸惑う芥川の脇をすり抜けて壺を左へ。
「追えッ! 逃がすなッ!」
「あははは!」
最後の直線。
異能力が使われる気配に、後ろ手を振る。
「のわぁッ?!」
お化けとして被っていたシーツを広げただけだ。
私の姿をすっぽりと覆い被すシーツに異能力が使われて、引き寄せればシーツは中也が被ることになる。
「上手く行き過ぎ…」
笑って呼吸が乱れないように前を向く。
あと少し、と云うところで背後に突如として気配が出現した。
中也が加速して追い付いたのだと気付くや否や、押し倒される。
「はぁっ…はぁっ…手前ッ…今度こそ捕まえたぞ…」
「…はぁ…はぁ……はぁっ…」
病み上がりに本気で走ればこうなる。
荒く肩で息をする私と、馬乗りになって押さえつけてくる中也。
静かに、拍手の音が響いた。
127人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時