第27話 中原side ページ28
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さ よ な ら
慈しむような微笑を残して。
朝焼けに飲まれ、女が消えた。
「「………」」
伸ばしていた手から力が抜けて、だらりと下がる。
「……A?」
紅葉の姐さんの声に答える者はいない。
どれだけ目を凝らしても、其処に在るのは粉々に砕け散った窓硝子の残骸と青い空。
何が起きた。
「……あの一瞬で」
姐さんの『金色夜叉』の首を手刀で飛ばし、俺の蹴りを入れ違うことで躱して、飛び降りた。
飛び降りた。
「フラれてしまったね」
その声に、現実に引き戻される。
Aは消えた。
飛び降りて逃げた。
俺たちポートマフィアから逃げた。
逃げた。
逃げた。
「やれやれ、幹部二人で止められないとは」
「_申し訳ありません」
その場に膝を尽き、頭を下げる。
何をしていた?
体術に自信のある俺が、よもや接近戦でしくじった?
何度考えようと答えは同じ。
Aは、逃げた。
「あの戦闘能力は実に素晴らしい。だが……残念だ」
首領が深く息を吐く。
心底残念そうに、それでも壊れるのは仕方がないと云う様に。
「
「俺にやらせてください」
首領の言葉を遮るなど、有っては成らない。
ましてや目の前で取り逃がすという大失態を犯した直後だ。
それでも、譲れない。
「仮とは云え、俺の補佐…部下です」
ずっと逃げる機会を窺っていたのだろうか。
茶を淹れるときも、
楽しそうに談笑するときも、
街に出掛けたときも、
裏切り者を始末するために走ったときも。
あの目覚めた瞬間から、ずっと。
「……俺に、殺らせてください」
「ふむ」
沈黙が続く。
殺らなければいけない、其の考えが何故か酷く恐ろしい。
逃げた。
不安だったんです
ポートマフィアから、逃げた。
中原さんで良かった
俺から、逃げた。
ありがとう 中也
「……っ」
此の高さから飛び降りて消えたと云うのに、下を見ようとは思わなかった。
恐怖からじゃない。
Aは死んでいないと、確信めいたものがあったから。
「では、中原君に任務を与えよう」
心臓が音を鳴らした。
嗚呼、
あらゆる感情を自覚してしまう前に仕舞い込む。
「中原君。君は」
俺は、Aを
「君は、
「……はい、必ず」
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梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時