4、法螺吹きと満月(エイプリルフールSS) ページ4
近所の幼馴染、
今日も侑芽姉ちゃんは、僕と一緒に帰宅する。僕はもう中学生だっていうのに、侑芽姉ちゃんと一緒に下校するなんて。なんというか、恥ずかしい。だってさ、クラスの連中が僕と侑芽姉ちゃんの姿を見る度冷やかしてくるんだ。そんなつもりは全くないのに。
「付き合おっか」
唐突に、侑芽姉ちゃんが切り出した。衝撃的な発言だった。どう反応したものか、と探っていくと、今日が四月一日であることを思い出す。
「四月馬鹿やめてよ。
四月一日侑芽。彼女に想い人がいることは知っている。
「あはは。そうだったね。……でもね、私は来週の満月の日、月に帰るの」
僕は、はあ。と呆けた声を漏らした。
「竹取物語?」
「いやいや、本当に。……手に入らない人を追うよりも、身近な人と思い出を作りたいなって」
「……諦めたの?」
うん、とやけにあっさりした声で言う。それが怪しく思えた。
「どっちにしても、付き合うとか、そういうことにはならないんじゃない? だって今日はエイプリルフールだし」
そう、忘れてはいけない。今日は四月一日。侑芽姉ちゃんの日だ。
侑芽姉ちゃんはそうだね、と笑った。
その後、侑芽姉ちゃんの口からその話が出ることはなかった。けれども、満月の翌日から、侑芽姉ちゃんと会うことはなかった。
どこまでが嘘で、どこまでが本当だったのかわからない。あの人が何を思いそんなことを言ったのかも。
信じなかったことが悔まれる。今もあの人の心がわからないままなのが悔しい。けれども、僕の思い出の中に、四月一日侑芽は存在する。
――月で、元気でいるといいのだけど。
見上げた空には、先程まで叢雲がかかっていた満月が優しく輝いていた。
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作者名:糸田 | 作成日時:2021年3月13日 21時