イッシュの狂戦士は (ページ45)

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「……今、この瞬間は。」

キバナにしか届かぬ声。

「あなたの事しか、考えられません……！」

深い蒼の双眼でAを捉えるキバナの瞳を、怯むことなく見つめ返す少女は、観客席に座っているファンたちの敵意の視線さえもバトルを楽しむための興奮材料に変え、口角を上げる。

(あなたがどんな技を命令して、私のともだちを窮地に追い込むのか、それとも呆気なく私に負けてしまうのか。)

そんなのどっちでもいい。

「私が、勝ちます。」

アメジストの瞳が、キバナの青い瞳すら飲み込むように、強い色を放った。

*

バトルは1VS1のシングルバトル。

道具の使用無し、ダイマックス無し、レベル差関係無しの単純明快、強い方が勝つ仕組みのバトル。

キバナが出したのはギガイアス。

Aは勿論ジャローダだった。

「…………は？」

空気が抜けた様な声を出したのは、Aだった。

キバナのことだ。少女がジャローダを出してくる事は容易に想像できた筈だ。それとも、裏をかこうとしたのか。どちらにせよ。

「……私を馬鹿にしています？所詮お遊びだとでも思ってるんですか？」

少女に対しては悪手でしかなかった。

本気で戦おうとしていた少女は、圧倒的有利な状況に興ざめして、バトル特有の緊張感を完全に無くした。

「不戦勝で私の負けで。」

1度本気になった気持ちを踏みにじられたような気がして、顔を下に向ける。

1人だけ本気になってバカみたいだと惨めな気持ちになった。

キバナの顔を見るのも肝が焼けて、返事を待たずにフィールドから出ようと歩き出す。

シンとしたスタジアムの中、ファンたちがクスクスと何かを言ってる声が聞こえて、無性に腹が立った。

「A、待て。」

「待つ必要はありません。」

「お前、俺のギガイアスがタイプ不利だからって、簡単に負けるとでも思ってんのか？」

ピタリと足を止める。

「逆ならお前はどう思う？」

(それでも勝つ。)

心の中で即答すると同時、キバナを振り返る。

「お前らがいくら強かろうと、簡単に勝たせねぇよ。」

キバナの激情が、心の中に入ってくるようだった。

(……ああ、この人も)

「…バトルが好きなのは、お互い様ですね。」

少女は困ったように笑い、再びボールを……

「あっ、まちがっ、」

……少女は投げるボールを間違えた。

あろう事か、1番見られてはいけないポケモンが入っているボールを、投げた。