イッシュの狂戦士は (ページ41)

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少女はテントの中で放心状態だった。

先程うっかり弱音を吐いてしまった少女は、バカにされるか笑われるか、どちらにせよ不愉快な気分になるだろうと思っていたが…

少女はキバナの熱い息が当たっていた首を無意識に押さえ、どんどん顔に熱が集まっていくのを感じた。

…異性に抱き寄せられるのは初めてで、微動だに出来なかった。

ポケモンの事は辛うじて頭の中にあったが、それ以外は全て頭の外に弾き飛ばされてしまった。

いつも私の行く手を阻む憎らしく逞しい腕に、まさか抱きしめられるとは思っていなかった。

息をするのすら苦しくなるくらい強く抱き締められたあの感覚を、時間が経った今でも思い出す。

ポケモンと遊んでいる時や、新しいポケモンと出会った時とは全然違う妙な気分に、名前をつけることが出来ない。

この妙な気持ちをどうすればいいのか分からず、とりあえず少女は久しぶりにSNSを開き、大きな満月を写真に収め、投稿する。

#モヤモヤ
#わからない
#月が綺麗

*

数分前までAを抱きしめていた手をじっと見つめる。

「力は強くなかったか……？」

ぽそりと呟いた言葉に反応するものは誰もおらず、キバナは深く息を吐く。

抱きしめた腕に、少女の甘い匂いがまだ残ってるような気がして、キバナは気恥ずかしくなる。

鼻を擦り、1度深く深呼吸をして、頭の中を整理する。

そして、このツアーが終わったら、Aに会う口実が無くなってしまう。と悩んだ。

少女の性格上、キバナとの1戦を終えたら、もうキバナを視界にすら入れなくなるだろう。少しの間一緒に行動したキバナだが、少女が関心を向けるのはポケモンに関することだけなのだともう理解していた。

「俺もイッシュに行くか…？」

と、呟いてみるものの、それはあまり現実的ではないとキバナは首を振る。

いっそ、Aが次どこへ行こうとしているのかを聞いてみるのもアリか。と代替案を練った。

少女が素直に教えてくれるとは思わないが、変な所で抜けてるあの性格を上手く利用しようとキバナは決めて、常に通知をオンにしているSNSを確認する。

「月が綺麗……そのまんまの意味なんだろうな」

そして、久しぶりに少女のSNSが更新されているのを見て、愛しそうに微笑んだ。

#モヤモヤ
#わからない
#月が綺麗

少女の気持ちが少しでも自分に向くように、いや、向かせる。と、キバナはAが見ているであろう月へ手を伸ばし、目を細めた。