イッシュの狂戦士は (ページ28)

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「出ねえな…」

ディナーの時間だからと少女を呼びに来たキバナは、返事が帰ってこない扉の前で腕を組む。

(まさか帰ったのか？……アイツの事だから普通にありえない話ではねえな。)

ドアノブを回すと、すんなり開いた扉。

「鍵くらいかけろよ…」

扉を開けた本人がそう独りごちりながら、暗い部屋の中へ歩みを進める。

そしてベッドにふくらみがあることに気付くと、迷わず近付き、布団を剥ぐ。

「…寝てたのか」

息をしてるのかも分からないくらい、静かだった。

その頬に指を滑らせれば、確かな温もりを感じ、ほっと息を吐く。

すやすやと規則正しい寝息を立てる少女に、キバナはどうしたものか、顔をゆっくり近づける。

それは、キスする為ではなく、ただ少女の彫刻の様に整った顔を間近で見たいがためだった。

しかし近付いてよく見ると顔に切り傷の痕がうっすら付いている事が分かった。

「あんま怪我するような事してんなよ…」

返事をするように少女が身じろぎをし、ポケモンの名を呼ぶ。

キバナはふ、と笑い、少女の頬に触れる。

「……悪いな。俺だよ。」

少女は男と部屋で2人きり、という環境下に置かれていても、驚いただけで警戒心はなかった。

危ないヤツだ。とつくづく思う。

多分相手が俺じゃなく別の男で、同じように手櫛で髪を梳かされていても、こうしてされるがままにしているのだろうと。

そんなキバナの心を知ってか知らずか、少女はディナーにはいかないと、さらに火に油を注ぐ。

「最高級のワインがあるぞ」

「未成年ですが」

「ガラル1のシェフが作ったパフェもあるぜ」

「ハシモトが作ってくれるもぎたてきのみジュースの方が好きです」

「…お前なぁ…」

「お出口はあちらになります。」

キバナが入ってきた扉を指さし、淡々と言う少女にキバナはとうとう折れた。

「…じゃあ、気が向いたらこいよ。」

「ええ。」

少女は、早く出ていけというオーラを隠すことなく手を振る。

その様子にキバナは鼻で笑い、せっかく直した少女の髪をわしわしと乱す。

「なんなんですかもう…」

少女は面倒臭そうにキバナの手を払う。

「…あんま言うこと聞かねえと、こっちだって方法選ばなくなるぜ？」

「…え」

「じゃあな。」

言うだけ言って、キバナは少女の部屋を後にした。