イッシュの狂戦士は (ページ27)

今日:8 hit、昨日:16 hit、合計:56,733 hit

:27 ページ27

「あー…その上からこれ着ろ。」

そう言って少女に歩み寄り自身のパーカーを脱ぐ。

「ちょっ、何脱いでるんですか！風邪引きますよ！」

先程のキバナと同じような反応をして、少女は首を振る。

「あなたのパーカーを濡らしてしまいますし、ファンの視線が絶対突き刺さるので…」

今までにないくらい拒否を示す少女だが、キバナもツアーに呼んだ”客”を風邪をひかせてイッシュに帰らせるわけにはいかない。

「お前を先にホテルに行かせるように手配する。それでもダメか？」

「それこそいりませんよ。車内はあったか…うごっ！？」

女性らしからぬ声を出す少女を無視して強引に頭からパーカーを着させる。

「いらな」

「俺様が風邪を引く前に行くぞ！」

何か言う前に少女の手を握り、車両の方へ走り出すキバナ。

「うわっ！？…あ、みんな行くよ！」

足湯にいるポケモンに慌てて声をかけ、キバナに強く引かれるまま少女は半分浮かぶように走った。

*

__顔に、熱い吐息がかかる。

「…キサラギ……？」

ポケモンを抱いて寝ることが多い少女は、その吐息がポケモンのものだと疑わず、手探りでポケモンを探す。

だが、少女の頬に触れたのは少し冷えた指先。

「……悪いな。俺だよ。」

「…ん！？！？！？」

一瞬で意識が覚醒し、今はツアーの途中だったと思い出す。

「ディナーは１階のラウンジでビュッフェだって伝えに来たら、死んだように寝てるもんだから少し心配したぜ？」

肩を竦めてそう言うキバナに一応すみません。と言っておく。

「ほら。さっさと行くぞ。お前待ちだ」

手櫛で髪を申し訳程度に直されるまま、少女はキバナの言葉を反芻する。

「……私待ち？別に待つ必要ないですよ。行く気ないので。」

「…は？」

寝ぼけた頭であろうと意識がはっきりしてようと少女はきっと同じことを言っただろう。

何故大人数で、しかも自分を好ましく思ってない人達と食事を楽しむのか。

本来美味しい料理の筈がその空気で不味くなるのは嫌だと端的に述べる。

「主役は早く戻った方が良いのでは？黄色い歓声が待っていますよ」

皮肉でもなんでもなく言った言葉に、キバナはやれやれと言った様子で返答する。

「嫉妬してんのか？」

「……？」

少女は言葉を返す事もせず、なんのジョークだと、本当に不思議そうな顔をした。

……これは…長い戦いになりそうだ。とキバナは内心苦笑した。