73「笑わせられる」 ページ4
『俺もバッカだねェ…』
つくづく思う。お人よしというか何というか…。
馬鹿だよ、本当に。まぁ、後悔はしていない。寧ろ、昔の自分に感謝してるけど。
『なげェ時間が経っちまったが…。そこまで変わってねェんだな…』
走るお下げの少女。
今世の名前は存じ上げないが、あの少女はまさしく「朱夏」である。
なんか、黒い怨念を感じる。
まァ、俺が知ったこっちゃねェが。
『どうしたんだよ』
心から感じる『本来の声』。
〈私は…。助けに行きたい…、だから!〉
『俺が知ったこっちゃねェよ』
声は止まる。
今、この身体を操るは俺。それゆえ、『本来の自分』はどうしようもない。
「姫…」
『おめェ…、「朱夏」になんかあんのかァ…?』
隣にいた鬼妖怪に話しかける。
「お前、いつからそこにいた?」
『さっきからずっといたが』
気づかれないのも不思議じゃない。
姿を消していたのだから。
「お前、澄朧か?」
『ま、そうとも言うな』
「…。妖気が凄いな」
『おあいこさま』
「そうか」
そういうやいなや、向こうへ行こうとする鬼妖怪。
気づいていないのだろうか…?
〈教えてあげて…〉
『本来の自分』がそんなことを言ってくる。
正直…、面倒だ。
『死ぬぞ』
腕をつかみ引き止める。
面倒だが、結局は引き止めてしまう。
「そうか」
腕を振り払い、「朱夏」のほうへと向かった鬼妖怪。
『馬鹿か…、笑わせられるぜ…』
死ぬと教えても、向かう。
俺には到底馬鹿としか思えない…。
〈………〉
生憎、『本当の自分』は何考えてるのかわかんないような奴だ。
正直、理解しがたい。
《思い出して》
不意に聞こえたその言葉。
『本来の主』とは違う別の誰か。何だか…、頭が痛くなってくる。
『思い出すも何もねェよ』
そう言い聞かせる。
「何か、忘れている」…。そうと気づいているのに…。
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