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「どうした?」

 サキハシが尋ねる。ダチュラは迷わず往来を指さして、「あの子、さっきあの骨董品屋から出てきた」と説明する。サキハシが店に入ってから程なくして出てきた亜麻色髪の少女。黒のジップパーカーに赤のミニスカートとどこにでも居そうな衣服を着ていた彼女は、黒いエチケットマスクで顔の殆どを隠していたが、露出した目元の、ピンクのアイシャドウと長い亜麻色の睫毛で装飾された瞼の下から覗けた瞳を見て、ダチュラは驚いたものだ。彼女が自分の左手側にあった店の出入口から出てきて、灯りの強い通りの方に一歩歩く度に、彼女の瞳は色を変えた。その瞳を見た瞬間、脳裏に幼い頃の記憶がフラッシュバックした。

 ダチュラの生まれた家は、ジェヘナ地方と呼ばれる場所の北部にあった。南部と北部が高い壁によって隔てられたこの地の北部、ジクラトの地の名家がダチュラの実家である。兄一人、姉一人、そしてダチュラの三人兄弟姉妹。ダチュラは次男であったから、家督を継ぐ兄ほど勉学に熱心に励むこともなければこの家に爵位を与えた王家への忠誠も薄かった。兄に比べ自分は出来損ないだということも分かっていたから、頑張ろうという気も起きなかった。それでも、母親が生きているうちはまだ家族仲は良好だった。

 母親の死は突然のものだった。ジェヘナ地方の壁によって別けられた南側、バビロアの地と呼ばれる場所に赴いた母親は、そこでバビロアの地に根付いた宗教の教徒に捕まり、異教徒として殺された。父親は酒に溺れるようになり病院に入院、兄が家督を継いで家を動かした。その際、弟妹であるダチュラ達の教育はそんな兄がすることになった。

 兄は厳しい人だった。言葉で、時には暴力でダチュラに言うことを聞かせようとした。そんな兄からダチュラを度々庇ってくれたのが、姉である。姉はいつでもダチュラに優しかった。

 そんな姉に連れられて、屋敷の地下室に入ったダチュラはそこで美しいものを見た。王家から爵位と共に与えられた、オパールと呼ばれる宝石だ。ガラスケースに入れられた宝石は、地下の明り取り用の窓から差し込む光の当たり具合で七色に色を変える。ダチュラはその宝石の美しさに見惚れた。

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作者名:綿雲しぃぷ | 作成日時:2023年6月27日 19時

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