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アイビーは変わらず、袖の中でナイフを握っていた。しかし男はアイビーに対して敵意を出すことはなく、むしろアイビーにはあまり興味が無さそうである。彼の興味はカウンターの奥のガラス棚の中の機械にだけ向いているようだった。
「あの機械は、もしかしたらポケモンかもしれないんだ」
「ポケ、モン……? あれが?」
「ああ。500年ぐらい前にある王国で造られた、人造のポケモン。まだ可能性の状態だけどな。それを俺達は調べたいんだ」
「お兄さん、研究者なの?」
「いいや、俺達は探検者だ。謎を追い求め冒険を生きる、な」
爽やかに、男は笑った。アイビーも愛想笑いを返した。
「素敵だね。
「だろ? だから今日も交渉しに来たんだ。調べるにしても、ガラスケース越しじゃどうしようも出来ねぇからな。俺等に譲ってくれってお願いするんだよ」
「そうなんだ、頑張ってね」
アイビーは言いながら、持っていたアイシャドウを棚に戻す。そして店の出口に向かって歩き出した。
「それ、買うんじゃなかったのか?」
「キミがこれから交渉に挑むなら、ボクは邪魔だろうと思ってね。キミの交渉はここでしかできないけど、買い物ならここ以外でもできる。交渉頑張ってね」
アイビーはヒラヒラと手を振り、店を出た。店の前には男のツレなのか、背の高く冷たい顔をした男がスマートフォンを弄りながら立っている。あの男のツレだと思ったのは直感だったが、間違ってはいなさそうである。黒のメッシュが入った紺碧色の髪の男。アイビーはその男の前を通り過ぎる。男の視線がジッとアイビーに注がれたが、アイビーは気にした様子を見せず雑踏へと向かった。
男の視線を感じなくなってから、アイビーは大きく息を吐き出す。
「……何者なんだろう、あの人」
呟いたアイビーは、先程のことを思い出していた。サキハシと名乗った男、彼に声を掛けられるまで、アイビーはまるで彼の気配に気付かなかった。アイビーは、自身は第六感が強い方だと自負している。特に今は気が立っていて、色んなものに敏感になっている。そんなアイビーでも、男に声をかけられるまで存在に気付けなかった。つまりそれだけ男は気配を殺すのが上手だということになる。
「どのみち、関わりたくない」
結論は出ていた。だがちょっとだけ、あのアイシャドウを購入出来なかったことだけは心残りでなかったと言えば嘘になった。
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作者名:綿雲しぃぷ | 作成日時:2023年6月27日 19時