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大きさは50cm程度だろうか、それぐらいの大きさでモンスターボールではない。アイビーはすぐ、これはビリリダマかと思った。ビリリダマもモンスターボールに酷似した姿をしている。だがそれも違うと思った。ビリリダマの表面は艶々しているが、このモンスターボール擬きは鋼特有の錆が所々に見られているし、赤い部分には黄色い波戦が書かれている。オマケに動いている様子もない。そもそもビリリダマのようにポケモンだったなら、あんなガラス棚の中に陳列するように納められることもないだろう。以前店を訪れた時は、こんなものなかった。これは一体……——
「——妙な
アイビーは背後から掛けられた聞いたことのない男の言葉に、バッと驚き振り返った。同時に袖の中に隠してあるナイフをいつでも取り出せるように握ったのは防衛本能からだ。飛び退き男と距離を取ったアイビーに、男は敵対意志が無いことを示すように両手を上げる。
「悪ぃ、驚かせたか?」
アイビーに声をかけたのは若い男だった。20代前半ぐらいだろう、パッと見て感じの良い好青年である。学校を修業し終えて会社に就職した新社会人ぐらいの年齢で、人好きのする笑みを浮かべている。やけにバチバチと穴を開けている派手なピアスが印象的な彼は、桜色の髪を揺らして小さく笑った。
「俺はサキハシ。お前は?」
「……アリス」
「アリスか。良い名前だな。お前もあのモンスターボール擬き、気になるのか?」
アイビーは咄嗟に偽名を使った。誰が敵であるかわからない現在、この男がアルカディアーク団の構成員でないとは限らない。故に本名を教えるのは憚られた。
偽名を使ったアイビーの名前を、男は信じたようだった。それもそうだろう、一般的に生きている人間は名前を尋ねられて偽名を使うなんてこと、考えもしない。男は気安い口調で、あの機械じみたモンスターボール擬きについてアイビーに尋ねた。
「そうだね、気にならないと言ったら嘘になるよ。キミも気になるの?」
「ああ。あれをどうにかして譲り受けたいんだが、店主がいくら金を積んでも手放したがらないんだ」
「それは……大変だね。どうしてあれが欲しいの?」
「あの機械が、“謎”だからだな」
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作者名:綿雲しぃぷ | 作成日時:2023年6月27日 19時