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駅はまだ電車が通る時間であるため灯りが照っていた。働き口の多い都市部へと労働に出て夜になると家のある付近の町に帰るという一日のサイクルをしているらしい社会人達は、疲れを顔に滲ませながら駅の改札を潜り中へと入っていく。アイビーは改札付近に設置された自動販売機で水を買い、電車が遅延した時に乗客が待てるよう設置されたベンチに座った。つい先程まで自動販売機内で冷やされていた水はヒンヤリと冷たくて、アイビーはジップパーカーの袖で手を防御するように覆った。ペキペキと音を鳴らしながら強引にキャップリングとキャップを捻じ剥がして蓋を開け、水を一口飲む。冷たい液体が喉を流れていく感覚に身体が震えた。
冷たい水を飲んだことで、アイビーの体温が一気に下がった。先程までアルコールで火照っていた身体を冷やしてくれて心地良かった春風が、一変して冷たい悪辣なものへと変わる。早くメタモンは来ないだろうかとぼんやり考えていたアイビーは、ふと、自分の足元を見た。今日造られたばかりの革製のスニーカー。アイビーの為だけに造られたスニーカー。ソールは柔らかく、ウェッジヒールは安定していて歩きやすい。ハイカットで見た目もお洒落だ。頭の中に、あの靴職人の言葉がフラッシュバックする。
『御前さんには、うんと動ける靴が相応しいだろう。自由にどこまでも冒険できるような靴が。きっとこれからも御前さんは、沢山の場所を走る。それは希望を掴むためだったり、恐怖から逃れるためだったり、はたまた愛を手に入れるためだったり、きっとその足でどこまでも進むだろう』
そう、この足はアイビーの自由の証明だ。もう骨を折られ布で巻かれ矯正されることは無い。歩けぬお人形に甘んじることなど無い。神の写し身として祭り上げられることも無い。アイビーは自由なのだから。
アイビーの座るベンチの隣に、キャリーケースを持ったメタモンが［テレポート］で現れた。アイビーはそれを見て立ち上がり、彼と共に改札をくぐる。
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作者名：綿雲しぃぷ | 作成日時：2023年6月27日 19時
