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骨董品店の扉を開ければ、カランという入店ベルが鳴ると同時に甘いお香が鼻腔を擽った。この店にやってきたという実感が湧くと同時に、アイビーはコスメコーナーへと真っ直ぐ歩いていく。
いつもならカウンターの奥にいる店主は、今は席を外しているらしい。カウンターには読みかけの新聞と老眼鏡が置きっぱなしにされている。アイビーは気にせず、コスメを見やった。
キチンと並べられたそのコスメ類は、どれも外装にも気を配ったものばかりで、自然の笑みが溢れる。一目で目を引いたのは、銀色の月のパーツで装飾されたアイシャドウパレットだった。テスターとして解放されているものを手に取り開けば、綺麗な青色と金色のアイシャドウが並んでいる。アイビーはメイクブラシでそれを手の甲に乗せてみる。発色も良い、光を浴びてラメが反射するのも良い、早速良いものを見つけたアイビーの気分はどんどん良くなっていく。
そのアイシャドウはシリーズ物のようで、他にも月のパーツが装飾の中に組み込まれたものが並んでいた。このシリーズの一式を買えば、化粧が一通りできるようになっているらしい。骨董品店の中にあっても違和感の無いお洒落なこれを、アイビーは購入することにした。齢14というまだ“子供”なアイビーは、こういう大人っぽくて澄ました物を時々欲しがる。購入したものをメタモンに自慢して『大人っぽくて可愛い？』と尋ねるのがいつもの流れだ。そしてメタモンは必ず、『そう訊く間はお前はまだ子供だ』と小さく笑う。アイビーはその顔が好きだった。
店主は未だカウンターを留守にしていた。アイビーは呼び出すためにカウンターテーブルの卓上ベルを鳴らそうと指を伸ばして、ふと、カウンターの奥のガラス棚に目が向き硬直した。そこには、モンスターボールがあった。否、モンスターボールではない。しかしモンスターボールに酷似した何かが、そこにあった。
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作者名：綿雲しぃぷ | 作成日時：2023年6月27日 19時
