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風が、激しく吹いていた。この部屋が高層階にあるから、地上では微量な風もここでは強風になる。
くるりと、アイビーが振り返った。ベランダの柵に両肘を掛け、柵に寄り掛かり身を預けている。その顔には笑みがあった。だがいつもの余裕そうな笑みではなく、迷子になった子供が強がりで見せるような笑みだ。
「ここに居てもいいんだぜ? オレなら、オマエが怯えてることから、守ってやれる」
「いいや、行かなきゃいけない。ボクは、歩き続けなくちゃいけないんだ。この靴がそうだ、あの靴屋の店主は正しい。ボクは歩き続ける。ボクは……——」
アイビーは一度目を伏せて、また笑った。
「——ボクは、恋に生きるからさ」
彼女はそのまま、流れるように背中から柵を超えた後ろへと飛び降りた。そしてすぐ後、剛健な翼が
キバナはベランダの柵に肘を付いてその後ろ姿を見送った。月光に照らされた雲間に消えていく彼女の姿が見えなくなってもベランダから動けずにいたのは、やはりキバナが彼女のことを想っているからであった。
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作者名:綿雲しぃぷ | 作成日時:2023年6月27日 19時