❦ ページ35
「吸っていいぞ? 煙草。ニコチン足りねぇのキツいだろ」
「いや、いや…………いや、いいよ……——キツいのは否定しないけれど、キミのポケモンには毒だ。いやキミのだけじゃなくて、ボクのポケモンにも毒だけど……ドラゴンタイプは特に、肺が大切だ。長命なドラゴン種が煙草の副流煙で肺をやられたら、その後は悲惨だ。キミだって、普段神経質なまでに気を付けてる」
「だけど今、ボールから出してねぇ。オマエの煙にはやられねぇよ」
「それでも……いや、そうだな……キッチンを借りていい? 換気扇の下で吸う、そうしたら少しはマシだ。キミのポケモンはキッチンには入らないだろう? なら
「わかった。そうしろ」
「ありがとうキバナ」
アイビーはソファーから立ち上がり、キッチンに向かいながらポケットから煙草を取り出して箱を振り一本咥えると迷わず火をつける。そしてシステムキッチンのコンロ上にある換気扇のスイッチを押してから、煙を吸い込み吐き出した。アルコールに酔ったからか、普段は青白いアイビーの頬には薄く赤みがさしている。しかし足取りはしっかりとしていて、
紫煙を肺の奥まで深く吸い込んだアイビーの身体から、少し力が抜けたのを見ていて感じる。彼女の所まで酒の入ったグラスを持って行ってやれば、アイビーは短く感謝を述べてから携帯灰皿に灰を落とした。
「……一口いる?」
煙草を吸っていると、この幼い少女も随分大人びて見える。アルコールで赤らんだ頬と潤んだ瞳も相俟って、どこか色っぽい。そんなことを思って横顔を眺めていたら、自分をずっと見ている理由を煙草を羨ましがっているからだと思ったのか、アイビーがそう尋ねてきた。唇から煙草を離し、吸口をキバナの方に向けてくるので、キバナは拒まずにそこに口をつける。煙を吸い込むことはしなかったが、甘い煙が鼻腔を擽った。
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作者名:綿雲しぃぷ | 作成日時:2023年6月27日 19時