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ページ31

『ボクは神にはなりたくない』

『っ!?』

『キミは偉大だ、ダンデ。ボクはそれをよく知っている。キミに向けられる視線は全て羨望の眼差しだ。キミは彼等の信頼と崇拝によって“神”になった。“人間”は“神”を殺せない、何故なら“神”を殺した時点でその人間もまた“神”になるからだ』

 少女のとうとうとした語りに、キバナはただ驚いた。隣に座るダンデが図星を突かれたかのように息を飲んだから、ますます驚いた。同時にキバナは理解した。ダンデが彼女にジムチャレンジへの推薦状を書こうとした理由が、“自分を倒せるトレーナーを作りたいから”だということに。それを少女に見抜かれ指摘されたことを、ダンデは驚いているのである。

『キミを倒しこの地方の頂点として君臨すること、それは楽しいかもしれない。だが恐ろしいことだ。その頂きに立たされた時、ボクは孤独に苛まれて苦しむ。それにキミを殺して(・・・)あげる気なんて起きない。だから、ボクをトレーナーとして育てようとするのはやめて。推薦状もいらないよ。……他に、現時点でボクに言っておきたいことはある?』

 少女の言葉に、ダンデは圧倒されたようだった。しかし流石地方を担うチャンピオンというべきか、みっともなく言い訳などはせずに彼女の言葉が自分の真意を突いていると肯定する。だが同時に、それだけではなくアイビーの可能性を見出してそれを幼いうちから育てたいと思ったというのを付け加えた。アイビーはそれを聴いて、頷いて、再度断った。

『個人的な友人になら、なってもいい。仕事(ビジネス)を一切含まない、私的(プライベート)な友人ならね。ボクも、強いトレーナーは好きだ。野心家も、努力家も、高い理想を持った人間も。でもボクは、トレーナーとして成長したいとは思わない。ボクは自己愛が強いし承認欲求も自己顕示欲も強いけれど、表に出れば出るだけ誹謗中傷の的になることも知っている。ボクはそんなの御免だ。群衆からの敬愛はいらない、恋人からの愛情があれば、それでいいんだ』

『……わかった。なら友人になろう、アイビー』

『うん。よろしくダンデ』

 二人はそうして、握手を交わした。キバナはそれを、ただ呆然と眺めていた。

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作者名:綿雲しぃぷ | 作成日時:2023年6月27日 19時

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