【ポケモン】命儚し愛せよ乙女IV〜いずれにしても彼女は駑馬〜 (ページ25)

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「“殺し”じゃなくて、“心中”だったら？」

「……？」

「お前に毒入りの酒を注いだ。自分にも毒入りの酒を注いだ。二人で毒を飲んで、仲良く天国に旅立つ」

「ボクと心中したいの？」

「『そうだ』って言ったら？」

「残念だけど、キミの想いを叶えることは出来ない。ボクには心に決めた人が居るから、ここでくたばることは出来ないし、そもそも一緒に死んだってその後は離ればなれだ。キミは天国に行けるだろうけど、ボクは地獄に堕とされるからね。ほら、離ればなれだろう？」

　なんてこと無さげに、アイビーは言った。彼女は自分が地獄に堕ちると確信している。彼女の前科前歴を、キバナは知らない。その一線を踏み込めばアイビーはなんの躊躇いもなくキバナから逃げて、もう二度と会わないようにするだろう。調べずとも、彼女がアングラな世界に生きていたのは振る舞いからなんとなく察することは出来た。

　キバナとアイビーの出逢いは、ダンデを通じてだった。ある日ダンデがわざわざキバナの自宅を訪ねてきて、キバナが来訪の理由を訊くより先に興奮気味に『とても強いトレーナーを見つけた！』と報告してきたのだ。訝しみながら彼を部屋に上げて、ダンデがスマホロトムに頼んで撮ったという動画を見たキバナは、その映像の中身を見て目を見開いた。

　映像の内容は、ダンデと誰か(チャレンジャー)のバトルの様子だった。亜麻色の髪をした、小柄で幼い娘。赤い口紅で塗られた唇から発せられる声は、変声期前の幼い少女のものである。

　ダンデはその日、ターフタウンの収穫祭に来賓として招かれていた。農業の町であるターフタウンは、毎年春に豊穣を祈る催事を執り行い、秋に収穫が終われば一年の実りを感謝して町中で祭りが行われるのだ。日夜歌い踊り酒を飲みたらふく料理を食べ、無事に農業を終えられたことを喜び合う。その祭りの出し物には舞や歌もあるが、一番の目玉はトレーナー達のポケモンバトルだ。一年の農業を終えて最高にテンションが上がったトレーナー達がここぞとばかりに集い、トーナメントで試合を行う。優勝者にはターフタウンの特産品であるターフ酒が贈与され、また祭りの間王冠を被り“王様”として称えられる。バトルトーナメントには町の外の人間も参加することが出来、この少女は町外から参加したようだった。