❦五話:ドラゴンストームのファム・ファタール ページ23
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キバナが現在根城にしている自宅は、ナックルシティの住宅街の一角に聳え立つマンションの一室である。ワンフロアを丸々使ったその部屋は、オートロック完備でコンシェルジュが常駐している、セキュリティ面に於いて一分の隙も無い場所だった。ファンの中に、たまに居るのだ。自宅を特定して家に突撃してこようとする輩が。そういう人間から己を守るためには、セキュリティが高い場所に身を置くことが自然となる。自分の仕事場の近くで一番セキュリティが高かったのがこのマンションだったため、キバナはここに入居を決めた。
この自宅の場所を知っている人間は少ない。更に招いたことがある人間となると、親友であり人生最大の好敵手であるダンデと、歳が近くプライベートでも気の置けぬ友人であるネズ、そして昔馴染みのアイビーぐらいなものだった。
アイビー。亜麻色の髪を長く伸ばした、虹色の瞳を持つ少女。年齢はキバナより一回り下。思考や言動に幼さこそ残るものの、その幼さも“愛らしい”と思わせる天性の才能を持っている娘。
「お邪魔します」
彼女は一声そう発してから、キバナの自宅へと入った。彼女の暮らすカントー地方では玄関に入ったらすぐ靴を脱ぐのが一般的らしいが、ガラル地方はその限りではない。実際キバナの暮らす部屋では、寝室以外基本的に土足で闊歩する。アイビーはそれが慣れないようで、毎回部屋に入る時にちょっと躊躇う様子が可愛らしかった。
今日、アイビーはキバナの馴染みの店で靴を購入した。その靴は今晩キバナの自宅に届くので、キバナはアイビーに自分の自宅でその靴が届くのを待つことを提案した。アイビーは秘密主義者で、且つ現在厄介事の渦中にある。厄介事に“不本意ながら巻き込まれた”のか“自ら突撃したのか”はわからないが、そんな彼女は自分に通じる情報を教えたがらない。だからあの店主が靴をアイビーが宿泊しているホテルに届けると言ったなら、彼女は靴の制作を断っただろう。それを知っているからこそ、届け先はキバナの自宅にした。アイビーは明日の朝にはナックルシティを去るつもりらしいため、キバナがアイビーと過ごせるのはせいぜいあと数時間だ。
時計は既に午後10時を周り、街の中には街灯の灯りが目立つようになった。アイビーにソファーに座るように促してから、キバナはキッチンに入り冷蔵庫から酒とコーラを取り出す。
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作者名:綿雲しぃぷ | 作成日時:2023年6月27日 19時