【ポケモン】命儚し愛せよ乙女IV〜いずれにしても彼女は駑馬〜 (ページ3)

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正に“偶像(アイドル)”。彼はこのガラル地方の全ての人間の希望を背負っていると言っても過言では無いほど人々から尊敬し老いも若きも彼を讃える。

　アイビーはモニターのあるビルの前をとっとと通り過ぎることにした。ダンデのことは特別嫌いではない。しかし偶像(アイドル)として表舞台に立つダンデは嫌いだ。見ていて吐き気がする。トレーナーとなってから一度も公式戦で負けたことの無い無敗のチャンピオン。ガラル地方ポケモンリーグの委員長ローズの操り人形(マリオネット)になることを甘んじて受け入れているその姿を見ると、心の底から中指を立てたくなる。

　彼は一応、ローズとは一定の距離を置きながら接しているつもりらしい。だがローズは、その点に関して一枚も二枚も上手(うわて)だ。彼のことを言葉巧みに言いくるめて、そして偶像(アイドル)の地位に収まるように仕向けている。それが皆の希望になるのだから、と。

　ダンデは、自分が偶像(アイドル)と祀り上げられることを良しとしている。その期待を全部背負って、何事も無いように笑っている。『キミって馬鹿みたい』と、アイビーは正直な感想をこぼしたことがある。ダンデは苦笑して、『知っているさ』と肯定した。それでももう、引き下がれないのだろう。

　『逃げればいいのに』とアイビーは言った。アイビーは逃げたからだ。あの男に神の分身として祀り上げられた時、メタモンの手を借りて逃げたのだ。ダンデだって、友が沢山いる。特に彼の親友であるキバナなら、自分の持ち得る権利やコネクションを全て使ってダンデを自由にしてくれるだろう。だがダンデは、首を横に振った。『このままの方が、皆幸せだ』と言った彼に、吐き気がしたのは言うまでもない。ダンデはアイビーの手を引き腰を抱き寄せて、『終わらせてくれるなら、きみがいい』と言った。『伝説を打ち破るなら、きみがいい』と。