❦ ページ20
「おいじいさん！ オレだ、キバナだ！」
キバナがカウンターの奥に通じる工房へと声を掛ければ、刃を研ぐ音が止んだ。そして奥の暗がりから髭を蓄えた仏頂面の男が出てくる。
「紹介するよじいさん。コイツはアイビー、オレの妹分みたいな奴だ。オレさまと同じくらい、熱い試合をダンデとやった例の女だよ」
「あぁ、この娘が……」
会話を聞くに、どうやら以前キバナはこの男性にアイビーの話をしていた様子だった。プライベートを話したがらないキバナにしては珍しい行動である。きっとそれほどまでに、この男性と親しいかこの男性を慕っているのだろう。
「コイツに靴を作ってやってくれ。どんな所にでも歩いて行けるとっておきの靴をな」
「ちょっと待ってキバナ、ボク明日の朝にはここを発つんだ。1から靴を作ってもらう時間なんてないよ」
アイビーは思わずキバナの言葉に横槍を入れた。だが彼は安心しろとウインクすると、「今晩、オレのマンションに届けてくれ」と男性に話す。アイビーは靴作りに対してはてんで素人だが、靴が十時間程度で作れるものなのだろうかと疑問になった。しかし男性はそれを承諾し、「こっちに座れ」とカウンターから出てきてアイビーをソファーに誘導する。導かれるまま座ったアイビーは靴とハイソックスを脱がされ、足を手で撫でられた。アイビーはビックリして反射的に足をバタつかせたが男は咎めることもなく、キバナも「落ち着けって」とむしろアイビーを宥めた。
両方の足をそうしてから、男性は一度奥に戻ると木製の足の模型のようなものをカウンターに起き、黙々と削り始める。
「スゲェだろ？ あのじいさん。一回触っただけでお前の足の形を憶えたんだ」
「もしかして、ボクの足と同じ形にしようと模型を削ってるの？」
「ああ。それでお前の足にピッタリな靴を作るんだ」
「へぇ……」
木をゴリゴリと言わせながら削る男は、二人の会話が終わるとすぐ「御前さん、生まれた地方は？」とアイビーに尋ねる。急に身の上への問い掛けにアイビーは眉を顰めたが、キバナが「デザインの下地にするんだよ」と耳打ちしたので、困ってしまう。察したキバナが、「少しジムに電話をしてくる」と言って店を出たので、アイビーはやっと口を開くことが出来た。
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作者名：綿雲しぃぷ | 作成日時：2023年6月27日 19時
