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キバナは年齢を見れば社会的にまだ若い部類に入るが、“大人”である。大人故に、強者故に、高い地位の人間故に、アングラな世界もある程度知っている。だがそこに関わることは彼は出来ない。関わったことが露呈すれば、彼が今迄積み重ねてきた全てが水泡と帰す。アイビーはキバナを貶めたいわけではない。だからこそ、自分に深く関わらせようとは思えない。線引きは大切だ。
竜は、ふぅと息を吐いた。そして降参だと言いたげに両手を上げてアイビーの意思を尊重することを示した。アイビーはやっと、ホッと胸を撫で下ろす。
「とりあえず、おまえが生きててよかった。生存報告は、ダンデにもしておいて構わねぇよな?」
「“他言無用”の言葉を添えてくれるなら、信頼出来る人には言っていいよ」
「分かった。実はこの記事を見つけてきたのはダンデなんだ。ローズ委員長から聴かされたらしい。相当取り乱してたぜ? おまえが死んじまったって」
「無敵のチャンピオンにも怖いものがあるんだね」
アイビーはそんな軽口を叩いて、いつもの調子を取り戻すことにした。
「新しい連絡先は?」
「落ち着くまでは渡せない」
「落ち着いたら絶対に寄越せよ?」
「約束するよ」
「なら解決だ」
アイビーが小指を立てて差し出せば、キバナは小指を絡めて手を上下に振る。アイビーが教えた“指切りげんまん”だ。約束をする時、アイビーはこの行動をする。キバナとそうして結んだ約束は、今はまだ一つも破ったことは無い。
「アイビー、この後の予定は?」
「どこかのコスメショップで水色系のアイシャドウを買ってから、暫くの衣服とシャンプーとかの消耗品を買う」
「なら買い物付き合ってやるよ。まずはアイシャドウからだな。オレさまイチオシのショップに連れて行ってやるよ」
「……熱愛報道ってすっぱ抜かれても知らないからね?」
「ブンヤが怖くてジムリーダーなんて出来ねぇよ」
アイビーの軽口に軽口で返したキバナに手を引かれ、アイビーは再び往来へ歩き出した。
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作者名:綿雲しぃぷ | 作成日時:2023年6月27日 19時