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「それより、仕事はいいの? “ドラゴンストーム”さん。ジムチャレンジシーズンはもう始まっているんだろう? キミはジムでチャレンジャーを待たなきゃいけないんじゃないのかい? それにキミは、ジムリーダーだけじゃなくてナックルシティの宝物庫を守る学芸員でもあるんだから……門番の竜が留守じゃ、泥棒に入られるかもよ?」
「ジムチャレンジは最近始まったばっかなんだよ。オレのジムに来る奴はあと三ヶ月は来ねぇ。宝物庫の方はリョウタに任せて、オレは午後から有給使った。昼飯に行ったレナが『アイビーちゃんに似た女の子を見ました』って言うから、捜しに来たんだよ」
「たった一つの目撃情報で半休取ったの?」
お馬鹿さんだねと言いたげにアイビーが目を見開けば、キバナはやれやれと言いたげに肩をあげる。そしてアイビーに寄りかかるようにして肩を組むと、自分のスマートフォンの画面を見せた。そこにはネットニュースの記事が表示されており、【カントー地方の学園内で生徒と教師の焼死体発見!】という見出しがでかでかと表示されている。アイビーはうっと喉を詰まらせる。記事をスクロールせずとも分かる、この記事はアイビーが死亡したとされている事件の記事だ。
「オレさまこの記事見た時ちょ〜焦ったよ。この記事によれば? おまえは死んだってことになってるんだからよ」
「……こっちにも色々事情があるんだよ」
「オレに言えないことか?」
「キミの立つ場所は、明るすぎる。日陰者には日陰者のやり方があるんだよ」
アイビーは断言し、長いこと親交しているこの男の腕を払った。キバナは青緑の目を細め、値踏みするようにアイビーを見る。アイビーはその瞳を見つめ返した。蛇に睨まれた蛙のような気分だった。否、この男は“蛇”ではなく“竜”である。だが似たようなものだ。ジムリーダーであり、ガラル地方の歴史的資産を守る宝物庫の守り人であるこの男は、社会的に地位が高くそれ故に利く融通がある。しかし彼は表舞台側の人間である。アイビーは舞台裏でコソコソと生きる種類の人間だ。キバナの助力は、アイビーの火力にはならない。
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作者名:綿雲しぃぷ | 作成日時:2023年6月27日 19時