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アイビーを抱きしめたのはニット帽を被った男だった。背は高く195cm程である。サングラスで目元を隠している彼は、「待ったか?」と親しげにアイビーに話しかける。どうやら“待ち合わせをしていた”というていでアイビーに助け舟を出してきたのである。

「遅いよ」

 アイビーは男の言葉に便乗した。男は「悪ぃな」と軽い口調で謝罪して、そのままアイビーの腰を抱き歩き出す。

「代わりに今日のデートは全部オレが奢るから機嫌直せよ」

「えー? ん〜、なら赦してあげる」

 先程まで自分達の声が聞こえないとでもいいたげに無表情で無視していた少女が、突如現れたサングラス男に対して親しげに応じ甘えたように身を寄せる様を、ナンパ男達はポカンと口を開けて見ていた。アイビーと男はそんな彼等を無視してそのまま往来へ歩き出し、人目につきづらい入り組んだ路地まで歩いていく。人目が無いことを確認してから、アイビーは男からパッと離れて振り返り彼を見上げた。

「……それで? どういうつもりなの? キバナ。ボク、週刊記事に“キバナ(キミ)の恋人”としてすっぱ抜かれるとか御免なんだけど」

 ちょっと素っ気ないアイビーの言葉に、男——このナックルシティのジムリーダーである“ドラゴンストーム”キバナは、サングラスを外しながら肩を揺らし笑った。

「おいおい、ナンパから助けてやったのにご挨拶だな。つかナックルシティ来てんならオレに言えよ。前のポケスタのアカウントに送ったDMに既読は付かねぇし、電話掛けても出ねぇしよ」

「最近スマホ壊れたんだよ。だから前使ってたアカウントにログインする手段もキミに連絡する方法も無い。電話番号なんて当たり前のように憶えないし」

「また壊したのかよ!? おまえスマホ壊しすぎ! 中に入ってるロトムだって、古いスマホから新しいスマホに移住すんの疲れるんだから気を付けろよな」

 キバナは呆れたように肩を竦め、アイビーはムッとして腕を組み彼を見上げる。

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作者名:綿雲しぃぷ | 作成日時:2023年6月27日 19時

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