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新しいスマートフォンに、ロトムはまだ適応できていないらしく、操作に若干のラグがある。アイビーはそのラグを見守りながら、どのコスメショップを訪れようかと迷っていた。
「ねぇカノジョ、聞こえてる？」
「いいじゃん、ちょっと飯食うだけだって」
アイビーはさらにため息をついた。先程から、アイビーに馴れ馴れしく話し掛けてくる男性が二人居るのである。十中八九ナンパだ。アルカディアーク団の人間ならアイビーを人目に付くこの往来からすぐ連れて行くだろう、この男達はただ『ご飯に行こう』と誘って来るだけである。それでも、面倒くさい。
ナンパという行為に遭うのは別に珍しくない。幼く、背が低く、無知そうなアイビーは、口説けば付いてくるだろうという偏見を持たれやすいのだ。つまり言いくるめ易いと思われる、もう少し詳しく言うと舐められやすい。アイビーはその点において、大変不服である。アイビーにはそもそも心に決めたメタモンという相手がいるのだから、ナンパについていくわけもなくまた他の奴と火遊びをする気も無い。恋には真摯に向き合いたいアイビーにとって、地獄まで添い遂げるつもりならば何人交際相手がいても構わないが“ヤリモク”や“一夜な遊び”の相手として選ばれるのは大変不愉快なのである。
なので、アイビーは男達を完全に無視していた。コスメショップについた口コミを見ながら、どこのショップに入ろうかと検討する。
「なぁ聞いてる？」
「全無視じゃん、ひでぇ〜」
アイビーが全くの無反応であるにも関わらず、男達は愉快そうである。おそらく旅行中、観光目的でナックルシティに来たのだろう。その観光に、女が一人居たら潤う、そんな単純な考えで声を掛けてきているのだろう。実にくだらないことだ。
「コスメショップ行きたいの？ 買い物付きあうよ？」
「ナックルシティなら、あのショッピングモールの裏側になる一般市場がいいんじゃね？ あそこ有名じゃん」
「あーね！ ポケッターで見たことあるわ！」
無遠慮にアイビーのスマートフォンの画面を盗み見て勝手に盛り上がり始める男達を、そろそろ追い払わねばなと思い顔を上げたアイビーは、ふと手首を掴まれ、そのまま抱き寄せられて硬直した。反射的に振り払おうとしたが、それより先に憶えのあるオーデコロンの香りが鼻に届いて動きを止める。
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作者名：綿雲しぃぷ | 作成日時：2023年6月27日 19時
