四話:友人キバナとの会遇 ページ14
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骨董品店を出てから、アイビーはこれからどこに行こうかを迷っていた。否、すべきことは分かっている。早く寒い地域で過ごせる衣服とシャンプーなど当面の生活で使う消耗品を買ってナックルシティからカンムリ雪原へと移動するのが最適解だ。メタモンに今後の行動を委ねたら彼は100%そう指示をする。だがアイビーの中で、先程の“気に入ったアイシャドウパレットを購入出来なかった”という事実が尾を引いていた。何度「やっぱり買えばよかった……」と零したかはわからない。しかしあのサキハシとかいう男とまた鉢合わせになったら最悪だ。今度こそ正気を保てる気がしない。メタモンの言葉を素直に信じるなら、アイビーは精神的にとても幼いのである。目の前まで手が届いてものが手に入らなかった事実はアイビーの平生を乱す。だから自分の機嫌を良くするためには、あの骨董品店のアイシャドウ以上に気に入るアイシャドウを購入することが絶対必要なのだ。そのために、アイビーは近くのコスメショップをスマートフォンを用いて探していた。
四月の入学式から通っていたフェニクスフィア学園でアルカディアーク団の男達に襲われてからすぐ、メタモンは以前アイビーが使っていたスマートフォンを解約した。そして新しいスマートフォンを別の人間の身分を使って購入した。その辺の詳しいやり方はわからないが、借金などに困った人間が自分の戸籍を売ってスマートフォンなどの契約が出来るようにするらしい。戸籍の売買をしているのは所詮闇金と呼ばれるアングラな組織の人々だから、誰に何を売ったかは秘匿される。だからこそ高価でもこのサービスをメタモンは利用したのである。新しいスマートフォンは、安値の機種だ。アイビーはスマートフォンをよく壊すし、トラブルに巻き込まれるたびに解約しては新しく契約してを繰り返すから、基本的容量は少ないが電波の通りが良いスマートフォンを購入する。前のスマートフォンの解約と共に、学校で仲良くなったコスモの連絡先は失った。そもそもコスモはアイビーのことを“死亡した”と思っているから、連絡を出すことも出来ない。もう二度と会えないかもしれない、だがアイビーはコスモよりメタモン達との生活を選んだ。やはりアイビーには心の底から仲良い友なんて出来ないのだろうなとため息をつく。
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作者名:綿雲しぃぷ | 作成日時:2023年6月27日 19時