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遊色効果、宝石の光学効果の一種で、オパールに入った光が内部の結晶や粒子によって分散して乱反射することで起こる現象。色を変える宝石に、幼かったダチュラはとても興奮したのだ。それが今、目の前を通り過ぎる少女の瞳にも起こっているようであった。光が瞳に入るにつれて、彼女の青黒かった瞳は鮮やかな緑色へと姿を変えた。その姿に、見惚れた。
「ああ、そういやさっきの店に居たな、あの子」
「目、見た?」
「? たしか……深い海のような色をしていたはずだ。急に声をかけたから、随分驚かれちまってな。訝しむように見られたよ」
「あの子の目、光の当たり具合で色が変わるんだ。光が当たるにつれて、青から緑になった」
「そうなのか? 面白い体質だな」
「うん……オパールみたいで、綺麗だった」
言いながら、ダチュラはずっと少女を見ていた。少女は道の端に寄り、俯いてスマートフォンを弄っている。手が小さいからか、両手でスマートフォンを操作している姿はどことなく愛嬌がある。ここからではその瞳も見えないが、あの少女だと確信が持てた。
「声掛けたのか?」
「掛けなかった。見てるだけしか出来なかった……サキくんは話した?」
「ああ、さっき言った通り話し掛けたらビビられた。“アリス”って名乗ってたぞ、あの子」
「へぇ、アリス……」
特段珍しい名前でもない。そうか、あの子はアリスというのか。そうしているうちに注文した料理が来て、ダチュラはそれを受け取った。甘辛にしたバターチキンカレーとナンが、この店でいつも頼むダチュラのお気に入りメニューである。
注文品を受け取って再び通りを見れば、スマートフォンを弄っていた少女は二人の男性に声を掛けられてお。しかし少女はスマートフォンから顔を上げず無視している様子である。それでも男達は、執拗く彼女に話しかけていた。
おそらく、少女は今ナンパされているのだろう。旅先で一夜のアバンチュールを求める輩にとって、あの少女は上玉中の上玉だ。一夜だけでも褥を共にしたいと思う男は多いだろう。マスク越しでも分かる美貌に、見惚れない奴はそう居ない。完全無視を決め込めるぐらいには、彼女もナンパされることに慣れているらしい。
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作者名:綿雲しぃぷ | 作成日時:2023年6月27日 19時