第二話 ページ2
.
「____うぅ…」
.
月永の呻き声が、虚無の部屋に木霊する。
彼の手元には大量の紙があり、大半は白紙のまま。
書き殴られた譜面にも、大きくばつ印が刻まれ、破り捨てられていた。
.
「違う、違う。
こんなの曲じゃない。
もっと、バッハみたいに、ヴィバルディみたいに、ベートヴェンみたいに!」
.
降ろされた橙色の髪を掻き毟り、
伸び過ぎた煩わしい前髪を払うこともせず手を動かし続ける。
ペンを握る手には力がこもり、指先を白く染めていた。
ガリガリと音が響き、
それさえも彼の
__筈だった。
.
「…駄目だ、書けない」
.
何処かで見たフレーズ。
つまらない旋律。
ありふれた曲。
音を立ててペンが転がり、月永は天を仰いだ状態で虚空を見つめた。
今まで、止めどなく湧き上がってきていたはずの霊感は、今は全く湧いてこない。
道端で固まっている溶けかけの雪のように、
痕跡も残さず思い浮かんだ音楽は消えていく。
感覚だけで曲を作っていた月永にとって、それは致命的だった。
恐怖に、指が震える。
___みんなが好きだったのは、俺の曲だ。
____曲を作れない俺なんて、何の価値もない。
洗脳するように、その言葉が何度も脳をめぐる。
そればかりが脳を占めて、最近はナニか、大切なものを忘れてしまう。
____昔好きだった曲の名前って、何だっけ。
____友達だと思っていた奴の名前って、何だったっけ?
.
____嗚呼、ほら。
____呼吸って、どうやってするんだっけ。
.
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:皮肉屋** | 作成日時:2020年8月26日 22時