嫌 ページ24
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ベッドの上で静かに窓の外を見つめるAくんは凛としていて、とても美しかった。
話しかけるのにも躊躇して、床と足が縛り付けられたかのように体が動かない。
俺が葛藤している間もAくんは俺に気付かず、目の前の子供にふわりと微笑む。
｢さ、時間がきたよ｣
店主さんは俺の背中を押しつつ、ゆっくり前へ。
｢Aくんおはよう。調子はどう？｣
店主さんが話しかけると、Aくんはぱっと顔を上げて一段と顔を明るくさせた。
｢おはようございます！すっごく元気です！｣
事故後とは思えないほど、前と変わらない笑顔で笑ってみせたAくんに涙がまた零れそうだった。
これだ。見たかったのはこれだったんだ。
彼にしか出せないこの笑顔だ。
店主さんは上手く話しかけれない俺に気を使って、店主さんから話を振ってくれた。
｢…あ、Aくん。ほら、ジスさんも来てくれたよ。ずっと心配してたんだよ？この人ㅋㅋ｣
『…Aくん、久しぶりだね』
できるだけ、いつもと変わらない笑顔で。
帽子とマスクをとって、自分だと分かって貰えるように。
｢ほら、なにびっくりしてんだよ。ジスさんは会って話したいって言ってくれたんだぞ？｣
｢……どちら様ですか？｣
店主さんは何故か動かないAくんの肩を軽く小突いて、笑いながらそう言うと、Aくんは小さくぼそりと呟いた。
小さく言ったのに俺と店主さんはしっかり聞き取れて、サッと血の気が引いた。
｢何言ってんの？いつも来てた常連のジスさん！いつも楽しそうに話してたじゃんか｣
店主さんが代わりに俺とAくんの関係を説明しても、Aくんは呆然とするばかり。
｢…？僕、まだ働いてないですよ？｣
しまいには働いてないとまで言い出した。
俺の頭は真っ白になって、まさか…と嫌な予感が全身を駆け巡った。
背中は少しずつ凍っていくし、無意識に拳を強く握っている。
もしかしたら看護師さん達が慌てているのもこれが関係してるとか考えちゃったり。
｢嘘つくなよ。お前は働いて、ジスさんと仲良かったんだよ｣
｢僕、嘘なんかついてない。まだお店に誘われたばっかじゃんか｣
｢はぁ？｣
店主さんも少しずつ言葉が強くなっていってる。
『…』
俺も止めればいいのに、止めれなくて。
ただ眺めてるだけ。
そこで、医者がやってきて俺と店主さんを呼んだ。
去り際、Aくんの方に振り返るとAくんは俺にあの子供に向けた微笑みを向けていた。
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作者名：ピーナッツバター | 作成日時：2021年8月2日 2時
