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「高次脳機能障害?」

「はい。交通事故で脳に損傷を受けた影響による記憶障害です」

「どういう症状が…?」

「世間一般的には人格変化等が多いですが、彼の場合一時期の記憶が欠如している可能性が高いです。ストレスなどにより悪い記憶を自動的に脳が消してしまっているのかもしれませんね。これらは詳しくは神経外科でお話するのですが__」

医者の言葉を右から左に受け流すかのように話は耳に入ってこなかった。

彼がそれほどあの出来事にストレスを抱えてしまっていたかもしれないと考えるだけで申し訳ない気持ちでいっぱいで。

恐らく、店主に出会ってすぐから今までの記憶がごっそり消えてしまっている、と医者は話す。

つまり俺と出会う前。

俺と何を話したか、俺が普段何を頼んでいたか、そして俺の存在まで全てが分からない状態になってしまった。

じぁあ今までの努力はなんだったの?

ちょっとした怒りと共に寂しさで胸がいっぱいいっぱいだった。

『…すみません。少し外に』

「あっ、ちょっと!」

どうしてもこの場にいて冷静を保てそうになくて、咄嗟に診察室から出た。









「…そうなんですか……」

「彼の御両親にもきちんとお話して、後日病室を移動させます」

「…お世話になります」

「いえいえ。記憶障害は大変ですからね。記憶が戻らないにしろ、彼の命がある限りは新しい記憶を刻めますから」








一人で早めにAくんの病室前に戻ってきた。

知らない人が自分の病室に勝手に入ってくるってどんな気持ちなんだろうな、と彼の気持ちになって考えてみるとやっぱり自分が彼にとって"知らない人"というポジションなのが複雑だ。

勢いで扉を開けて、Aくんのベッドに近付いた。

本を読んでいたAくんは肩をピクリと震わせて、顔を上げる。

『俺の事知ってる?』

「…わかんないです」

『ジョシュア…って知らない?』

「…ジョシュア……看護師さんが言ってました」

『それだけ?』

「……あとは…特に何も…」

やっぱり、話し方からして距離を感じる。

さっきまで微笑んでいた顔も俺が話しかけた途端、怯えるような表情に一変。

『…ごめん。怖がらせるつもりはなかったからさ。帰るね』

ベッドの周りをぐるっと回って反対側に移動する。足元の鞄を取って、もう一度Aくんの方を見ると、しっかりと俺の方を見て、ふわりと微笑んでいた。



その目に、ずっと俺だけ写しておけばいいのに。

涙→←嫌



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作者名:ピーナッツバター | 作成日時:2021年8月2日 2時

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