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『ありがとうございました』

タクシー運転手にお金を支払い、彼の居る病院の中へ駆け足で入る。

大きいロビーを抜け、店主から教えてもらったAくんが居る病室へ向かう。

整形外科のある4階に行く為にエレベーターに乗る。

俺が歩く度に看護師さん達が振り返ったり、二度見されたりとファンと思わせるような行動が少し見られた。

それでも気にならなくて。

ただひたすらAくんの無事を祈るばかり。

ナースステーション前も駆け足で通って、405号室の扉を開けた。

405号室は一人部屋ではなくて、中に4人入る大部屋。

もう消灯時間のためカーテンは閉め切っていて、Aくんのベッドも暗くなっていた。

足音を立てずにベッドに近づいて、静かにカーテンを開けるとそこには眠っているAくんが。

その姿を見ただけで、彼がまだ生きていたことに感動を覚え、胸がぎゅっと締め付けられた。

涙を堪えながら、ベッド傍の椅子に腰掛け、Aくんの手を握った。

Aくんは頭に包帯を巻かれており、心電図モニターも映されていた。

今のところ脈は正常。

先程までの緊張が解け、安心感がどっとやってきた。

静かに眠り、夜光に照らされる彼の横顔は今にも消えしまいそうで不安になる程綺麗だった。

存在を確かめるようにAくんの手を握って、割れ物を扱うようにそっと抱き締める。

朝、抱き締めた時よりも暖かくて、布一枚から伝わる彼の体温が俺を優しく包み込んでくれている。

締め付けられる胸の痛みもAくんの体温でそっと紐解かれていくようだ。

今は抱き締め返してくれない君だけど、いつかは自分から抱きしめてくれるのかな、なんて思ったり。

いつしか日常が非日常に変わったあの日。

Aくんと出会ったあの日から人生の歯車が可笑しくなったかのように逆回りしだした。

全てが予想できなくて、俺のやることも空回りしていく。

でもそれが何故か楽しくて、幸せと感じる。

それは、今俺の腕の中で眠るAくんのお陰なのかな。

『Aくん…好きだよ……』

好きだと言う言葉を何度もAくんに伝え続ける。

彼が今聞こえてないことを利用して、何度も。確かめるように。

この想いを爆発させる。

『ずっとずっと好き。Aくんが居てくれないと…ダメなんだ……』

気持ち悪い。そう思われてもいい。

ただ、彼が好きでたまらない。

愛おしすぎる彼の鼻先にそっとキスを落として、落ちてくる瞼をゆっくり閉じた。

覚→←様



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作者名:ピーナッツバター | 作成日時:2021年8月2日 2時

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