四一、病院 ページ41
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まるで水の滴る服を着たまま歩いた人がいたかのように、誰かの足跡を追うように薄氷が張っては溶けていく。
A は、恐らく気付いていないのだろうがそれを気にする素振りもなく走り続ける。
『カカシが倒れて病院に運ばれました』
理由も聞かずに走って来てしまったけれど、だって頭が真っ白になったのだ。何も考えられずにただ足が動いた。
容態を知りもせず見てもいないというのに涙が溢れた時、ようやく病院の入り口を潜って受付も通らずに虎面に導かれるまま足を進める。
「ひッ……、カカシさん!」
「チャクラ切れで倒れているだけですから、待っていれば目は覚める筈です。動けるようになるまでには少し必要ですが」
「あぁ……良かった…」
虎面の説明を受けてようやく体の力が抜け、真っ青な顔でベッドに横たわるカカシの傍へ歩み寄った。
椅子を持ってきてくれたテンゾウと案内してくれた虎面に礼を言って頭を下げると、彼らもまた頭を下げて退室した。
静かになった空間に、自分の浅い呼吸だけが消えていく。
「カカシ、さん…」
掛け布団から出ている彼の手に手を伸ばして、自分の手が震えている事に気付く。
それを見ているだけで内に燻る不安がまた火を吹くようで、ガバリと覆い被さるように抱き付いた。
涙が溢れて、頬を、布団を濡らしていく。
「ふぅう……っカカシさん…カカシさんッ…」
歯の隙間から溢れた呻き声を聞くと更に涙が溢れて止まらず、声を不安を押し殺して泣き続けた。
ーーー
「A様、随分人間らしくなられたじゃねえの」
「敬語を使うのか汚い言葉遣いで通すのか…はっきりして下さいよ。それはそうと、確かに。……あの2人って恋人同士なんでしょうかね」
「ありゃ。兄妹に見えんのはオレだけか」
「まあ2人は親戚っていう体で通してますしね」
病室から聞こえてくる泣き声を聞かないフリしながら、2人が言葉を交わす。
虎面から見れば、カカシは暗部では考えられない程にAを甘やかして可愛がっている。
Aは慈しみと愛を受ける度にその器を深く広くし、笑顔をもってカカシに応える。
あんな綺麗な顔した2人が仲良く歩いていたら、これ以上無い幸せと美の形だろうと思うのだが、恋人に見えるか兄妹に見えるかは人それぞれだ。
けれど恋人だと言われればそれまで。
それ以降は絶対に恋人にしか見えなくなるだろうということは、想像に難くないのだった。
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Rai(プロフ) - 瑠璃烏さん» ありがとうございます! (2020年11月5日 19時) (レス) id: 1de574fab4 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - Raiさん» 機械がてんでダメなので手間取りそうですが…(ー ー;) (2020年11月5日 12時) (レス) id: c14d105dae (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - 恐悦至極でございます(T^T)こんな自己満小説を楽しんで頂けてうれしいです!お誘い、ありがたく受けさせて頂きます。ありがとうございます! (2020年11月5日 12時) (レス) id: c14d105dae (このIDを非表示/違反報告)
Rai(プロフ) - やり方はペーストに画面そのまま押し、通常検索など出来る思いますこの作品も大好きでいつも読ませて頂いていますこれからの作品も頑張って下さい! (2020年11月5日 11時) (レス) id: 1de574fab4 (このIDを非表示/違反報告)
Rai(プロフ) - 初めましてもしもご迷惑無ければご参加出来たら思いますもし無理でしたらお断りしても構いません。イベント後「https://uranai.nosv.org/u.php/event/kouooue/」「 あなたの小説読ませて下さい。」 (2020年11月5日 11時) (レス) id: 1de574fab4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2020年10月26日 18時