三九、関係 ページ39
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家の戸を開くと中は随分と静かで、けれど明かりは付いている。
サァッと血の気が引くのを感じて靴を脱ぎ捨て急いで部屋の障子を開けると、そこに居たのは驚いた様子のAで。
カカシの姿を捉えた瞳は途端に喜色を浮かべ、手にしていた筆を置いてパタパタとカカシへ駆け寄った。
「お帰りなさい!」
「っわ…、ただいま」
ガバリといきなり抱き付かれて一瞬よろめき、背中に手を回して体勢を整えながら返事を返した。
しっかりと抱き込もうとしてからハッとしてその手を離し、代わりにその手を取る。
「汚れてるから。風呂入って来るよ」
「は、はい。ごめんなさい、つい…」
「なんで?謝らないでよ」
顔を見たら底の見えない愛おしさが溢れてくるようで、同時に昨日の事が頭を過って腹の底に何かが燻る。
けれどAは昨日の事など無かったかのように笑って、良かったと言う。
そっと頬に手を添えて、今の自分達の関係に考えを巡らせた。
ーーよく分からない関係。
Aは多分、オレに好意を持っている。
その感情はきっと本人も気付いてる。
では、オレは?
愛おしいと思う。守りたいと思う。抱き締めて抱き締め返される事は嬉しいし、傍に居たい。
でもそれが恋情なのかと問われたら、よく分からない。
口付けの一回や二回、別に大して抵抗は無いけど。母性とか父性とかに近いものなのでは?これは恋情なのか?
分からないうちは、知らないフリでもしていようか…
「カカシさん…?」
「…何でもない。ねえ、A」
「?」
「必ず、呼んでよ。怖くなったらでも、何か身に危険が迫ったらでも、何かあったら必ず」
視線を合わせてそう諭せば、Aは少しキョトンとして、それから唇を引き結んで頷いた。
頬に添えていた手に髪の毛がサラリと触れて、思わずドキッとする。
お風呂、冷めてないと良いんですけど…なんて言いながら苦笑するAを見ていたら、やっぱり愛おしさが次から次に湧いてきて。
ーーやっぱり、違うな。
オレも彼女に、恋をしている。
でも、言わない。
身分が違う。彼女は綺麗で、自分は汚い。彼女の為にならない。幸せに出来る訳がない。彼女が子供を欲しがっても、オレはつくる気が無いし。
理由なら幾らでも出てくる。だから、言わない。
親指で目尻をなぞるとAはまた頬を染めて、きゅっと唇を結んだ。
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Rai(プロフ) - 瑠璃烏さん» ありがとうございます! (2020年11月5日 19時) (レス) id: 1de574fab4 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - Raiさん» 機械がてんでダメなので手間取りそうですが…(ー ー;) (2020年11月5日 12時) (レス) id: c14d105dae (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - 恐悦至極でございます(T^T)こんな自己満小説を楽しんで頂けてうれしいです!お誘い、ありがたく受けさせて頂きます。ありがとうございます! (2020年11月5日 12時) (レス) id: c14d105dae (このIDを非表示/違反報告)
Rai(プロフ) - やり方はペーストに画面そのまま押し、通常検索など出来る思いますこの作品も大好きでいつも読ませて頂いていますこれからの作品も頑張って下さい! (2020年11月5日 11時) (レス) id: 1de574fab4 (このIDを非表示/違反報告)
Rai(プロフ) - 初めましてもしもご迷惑無ければご参加出来たら思いますもし無理でしたらお断りしても構いません。イベント後「https://uranai.nosv.org/u.php/event/kouooue/」「 あなたの小説読ませて下さい。」 (2020年11月5日 11時) (レス) id: 1de574fab4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2020年10月26日 18時