検索窓
今日:8 hit、昨日:1 hit、合計:28,003 hit

*55* ページ7

貴「うぅ…う……」

与「いやァ、良いデータが取れたねェ」

半泣きの私をよそに、与謝野先生は上機嫌だ。私の足も完璧に治っている。精神的にはボロボロだが。


げっそりした顔で事務所に戻ると、ドアの近くにいた谷崎さんが「お疲れ様でした」と声を掛けてくれた。

谷「いやァ、大変でしたね……」

おそらく私の産声が聞こえていたのだろう。人は死の恐怖に慄くと生まれた時と同じ言葉しか喋れなくなるのだ。知らんけど。


貴「ご迷惑お掛けしました…」

谷「いえいえ、お互い様ですから。それよりホラ、乱歩さんがお待ちですよ」


谷崎さんが乱歩さんの方を見る。乱歩さんの顔はこちらから見えないが、恐らくむくれているだろう。私が足を引っ張ったせいで乱歩さんにも迷惑を掛けてしまったのだから。


貴「乱歩さん、申し訳ありません。ご迷惑お掛けしました」

近づいて頭を下げると、乱歩さんは小さな声で何か呟いた。よく聞こえず顔を近づける。


乱「もう大丈夫なの」
貴「ああ、はい。与謝野先生のお陰でバッチリです。」

ほら、とアピールするも、乱歩さんはそう、というだけだった。乱歩さんなりに心配していてくれたようだ。嬉しいことである。


貴「心配してくださってありがとうございます。今後はこのようなこと…」

無いように気をつけます、は言えなかった。乱歩さんがぽん、と私の頭に手を置いて、わしわし撫でてくれた。私がわわ、と言うと、乱歩さんが言った。


乱「君はそのまま邁進すればいいよ。凡人には気を付けたってどうしようもないことがある」


いつもの乱歩さんだ。何故か少し嬉しくなって笑うと、「なに笑ってるの!」とさらに撫でられた。痛みの記憶なんてもうどこにもなくて、いつものふたりだけがそこにいた。

*56*→←*54*



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (144 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
270人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

飛花落葉(プロフ) - 最俺好きさん» ご感想ありがとうございます!めちゃくちゃ嬉しいです!更新いたしました! (2021年8月26日 1時) (レス) id: 816599e0d1 (このIDを非表示/違反報告)
飛花落葉(プロフ) - Ylixeさん» 更新いたしました!よろしくお願いしますー! (2021年8月26日 1時) (レス) id: 816599e0d1 (このIDを非表示/違反報告)
最俺好き - 最高 、乱歩さん可愛すぎ、早くみたい (2021年8月24日 8時) (レス) id: fd9315de1d (このIDを非表示/違反報告)
Ylixe(プロフ) - 更新待ってます! (2021年8月23日 22時) (レス) id: e810b4e196 (このIDを非表示/違反報告)
サモエド人間 - 最高です。頑張ってください! (2020年3月24日 12時) (レス) id: 12dddfcf8e (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:飛花落葉 | 作成日時:2020年2月8日 13時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。