希望か、枷か ページ39
「少し出てくる。」
実弥さんが昼間、出かけて行った。
『いってらっしゃいませ。』
玄関まで出て見送った。
珍しいな。
任務以外で、行き先を告げずに外出するのは。
まぁでも、ちょうど良い。
わたしは台所に行き、隠しておいた品を落とさないようにそっと、取り出した。
艶やかでふっくらとして、すごく美味しそう。
『…うん、1日置いたら良い感じ。』
この日のために仕込んだ特製おはぎ。こしあん、つぶあん、抹茶、桜の塩漬けを使った桜おはぎ。
一級品の小豆をふんだんに使った、名付けて−…
『実弥スペシャル!!』
そう、今日は記念日なのだ。
輝哉様のお屋敷で実弥さんと再会した日。
あの日から、わたしの人生が大きく変わったんだ。
きっと実弥さんは覚えていないだろうけれど。
「A、帰った。」
玄関で声がした。
『おかえりなさい…え、これ…。』
差し出されたのは、美しい桔梗の束だった。
彼を見上げれば、恥ずかしそうに耳を朱に染めている。
「簪にしようかと思ったが、お前の瞳の色に似ていたからな。」
無骨な実弥さんに似合わぬ、その可憐な花。
どんな顔で選んでくれたんだろう。きっと勇気がいったはず。
差し出された花束を受け取る。
その美しい青に見入る。
桔梗は、万葉集や家紋にも使われた、昔から愛されている花。
その花言葉は−
「…A、すべてが終わったら。」
「祝言をあげよう。」
『!!』
…いまなんて……?
「俺の最優先は無惨を倒すことだ。柱である以上、正直いつ死ぬかわからねぇ。確実なことは何一つ言えた立場じゃねぇが…。」
一瞬ためらった後、まっすぐわたしを見据えた。
「A、お前を愛している。…俺の為に生きてくれるか?」
『…ふぇッ……ぐす…は、はい。もちろんでずぅ…うっく…。』
嬉しい。
泣きたくないのに。
あぁもう。ちゃんと顔を見て言いたいのに、涙でぼやけてきちゃう。
『わたしには…わたしには実弥さんしかいませんッ……。』
『生まれ変わっても、実弥さんを探します。』
『実弥さんも、わたしを探し出してくれますか……?』
「…あァ。必ず。」
本当は、約束できない先のことを望むべきじゃない。
俺の望みは、お前にとって枷になるかもしれない。
でももう後戻りはできねぇ。
出逢ってしまったんだ、運命の女ってやつに。
A、俺はお前の為に生きる。
お前は俺の為に生きろ。
俺より先に、絶対に死ぬんじゃねぇ。
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まるこ(プロフ) - 蝶々。さん» ありがとうございます。 嬉しいです! もう少しだけ続きますので、宜しければ見届けてやってください。 (2020年6月13日 16時) (レス) id: d44de4af2e (このIDを非表示/違反報告)
蝶々。 - .とても素敵な作品でした...。長男’s…尊。次回作あったら見に行きますぅぅ!(泣) (2020年6月13日 16時) (レス) id: 99cfbd2b16 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まるこ | 作成日時:2020年5月25日 23時