8輪目 ページ8
「あーあ…どうしよ」
先程までの快晴が嘘のように黒く染まった雲に覆われ激しく降り頻る雨。
私が帰る頃には止むと思ったんだけどな…。
先に仕事を終えた同僚に折り畳みを貸してしまい手元に雨を避ける物がない。
仕事場が自宅から電車に乗り5駅の所にあるため迎えに来てもらうにしても距離がある。
「困ったなぁ」
「どうしたんですか？」
独言で発した言葉に返答があり驚き声のした方へ顔を向けると見知った人物がそこに立っていた。
「どうも」
にこやかな表情で挨拶する彼。
「こんばんは」
「傘、お持ちでないんですか？」
「あはは…折り畳みを先に仕事を終えた同僚に借してしまって…」
そう言うと彼は小さく笑う。
「優しい人なんですね。家まで送ります」
どうぞっと手を差し出す彼に戸惑っていると。
「気にされるタイプですか？」
どこか寂しそうな声でそう言われ気付いた時には彼の手を取っていた。
「家からかなり離れた所で働いてるんですね」
「両親の勧めで」
「そうなんですか。ご両親は医療関係の仕事を？」
「いえ、私が自分で選んだ仕事です」
素敵ですねと言うと彼は足を止める。
「？？どうしました？」
「いえ、なんでもないです。行きましょう」
そう言って歩き始めた。
「あの、一つ聞きたい事があるんですけど」
彼はなんですか？っといつものにこやかな顔で言う。
「あ……いえ、なんでもないです」
「？？大丈夫ですよ、聞いてくださっても」
再び足を止め私の言葉を待つ彼に気になっていた事を聞く。
「えっと…で、では、失礼ですがこれ、読めますか？」
そう言って鞄からスマホを取り出し文がずらりと並んでいる画面を彼に見せる。
「？？？」
やっぱり…でも…そうだとしたら可笑しい…。
「あ、もしかして私の目のことですか？」
状況を理解したのか自分から本題に触れる彼。
「は、はい…。初めてお会いした時から思ってたんですけど…仕草からして見えているように感じたので…」
「そうですねぇ」
彼は手を顎に添え少し考えてから口を開く。
「貴女は洞察力に加え観察力も優れているようですね」
「どう…え、もしかして」
「はい、当たりです」
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作者名：春悲 | 作成日時：2019年4月30日 17時
