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久しぶりに、この扉を開ける。
"生物学準備室" と書かれたプレートには、随分と年季が入っている。
「失礼します。」
「あ、渡辺さん。こっちどうぞ。」
少し昨日の気まずさが残ってか、お互いにぎこちなかった。
「で、話って？」
「もう、ケリをつけようと思って。」
聡は個人面談や、生徒が質問を聞きにきた際に使われているちょっとしたテーブルに、私と向かい合わせに座っている。
脚の上に置いた手が、震えているのが分かる。
「ケリ？」
「私は風磨と付き合ってる。聡はレイカさんと付き合ってる。もう、お互い違う人と違う未来を見てる。だから、やめにしよう。」
「どういう意味？」
「今ここで思ってる事全部言って。それで終わりにしようよ。もう、聡との過去にとらわれたくない。」
自分でも言葉になっているのかは分からなかった。
それでも、聡はきちんと聞いてくれた。
「ねぇ、Aさ、覚えてる？」
「なにを？」
「夏の夜にさ、ベッドのシーツ引っ張ってきて2人でベランダに並んで、空見た事。」
聡は諸事が終わると、必ずベランダに出て煙草を吸っていた。
いつもそれをベッドから眺めていたのだけれど、たまに寂しくなって、シーツと一緒にベランダへ出た事があった。
「あの時さ、Aが月見て綺麗、って言ってたけど、俺はAの事しか見えてなかった。」
「なにそれ。」
「ほんとだよ。Aの目にちゃんと俺は写ってるのかな、なんていつも不安だった。」
「私は、聡の事を見てたよ。聡の事しか見てなかった。聡しか好きじゃなかった。」
頬杖をついて他所を向く聡と、強く握る拳を見つめて俯く私。
その決して交わらない視線が、私たちの関係を表しているようだった。
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作者名：はる | 作成日時：2018年3月3日 19時
