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「Aちゃん。」
「ん？」
「お誕生日、おめでとう。」
ハッとした。
そうだ。私は今日誕生日で、ついさっきまで勝利と居て、帰ろうとしたら聡と遭遇して...
「ごめんね。誕生日だってこと今日知ったから、何も用意出来てないの。」
「ううん。私が言ってなかったのが悪いんだし、風磨が居てくれるだけで十分。」
そう言うと、風磨は優しく頭を撫でてくれた。
「ごめんね。散々辛いこと言わせたと思うんだけど、最後に、今日あったこと教えてくれる？」
帰る予定じゃなかったのに帰ることにした経緯とか、勝利にもらったせっかくのプレゼントを包んだ紙袋が雨でぐちゃぐちゃになっていたりとか。
...雨の中、1人でしゃがみ込んでいた理由とか。
「って訳で...」
「あの、さ。」
「うん。」
「Aちゃんは、松島の事、まだ好き？」
気まずそうに聞いてくる風磨と、目が合わせられなかった。
好きか嫌いかで言われれば、きっとこの感情はどちらでもない。
好きかと聞かれれば好きじゃないし、嫌いかと聞かれれば別に嫌いなわけでもない。
「分かんない。何にも思わない。」
「そっか。分かった。」
風磨は優しく抱きしめてくれて、後ろから背中をトントンと叩いてくれた。
「Aちゃん。Aちゃんはきっと、一度松島ときちんと話をした方がいい。」
「え？」
「俺が許すから、一度話をしておいで？何かされそうになったら俺に連絡して。直ぐ飛んで行く。」
「うん...」
「気が乗らない？でもそれが、大人になる第一歩目だよ。」
風磨と私はひとつしか年齢が変わらないのに、風磨の方が随分と大人びて見える。
「でも、今日はとりあえず、幸せな気持ちになってほしい。せっかくのお誕生日なんだから。」
そう言うと風磨は、私を軽々と抱き上げて、寝室へと運び、ベッドの上にゆっくりと下ろした。
「20歳のお誕生日おめでとう。まずひとつ目、大人の世界を教えてあげる。」
妖艶に笑う風磨を見上げた。
綺麗な顔だなぁ。どうして髪はそんなにサラサラなの？
なんて、なんだか風磨の全てが愛おしくなって、顔のラインに沿って指を這わせた。
あぁ、この人の事好きだ。
なんて思うと、自然と笑みが溢れた。
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作者名：はる | 作成日時：2018年3月3日 19時
