伍拾肆 ページ15
Aside
『…………はい。穢れを清めといたで』
燭台「ありがとう。
…………凄いね、跡もなく消えた。
君は本当に鬼？不思議だね」
『善良の鬼やから？』←
燭台の兄さんを清めて、三振りを一通り見渡す。
うん、上手く浄化は出来たようや。
この幽世に九十九神の都があって助かったな。
とりあえずここにいる限りでは兄さんらの
安全は確保できる。
………うちはちょっとまずいかもやけども。
『(………ま、顔を隠せばいけるか)
燭台の兄さん、体大丈夫なん？』
燭台「どうかな。感覚が無いから分からないや」
『それは困ったな。何かあったら直ぐに言うてな』
燭台「…………」
燭台の兄さんにそう言うたら、
兄さんは自分の手を見て開いたり握ったりしとった。
それから口を開いて言うたんよ。
燭台「感覚が無いのって、便利だね。
まるでまだこの体を得る前………顕現する前の
自分になったみたいだ」
………って。
感覚が無い………それは痛みとかが無いって事やろ。
傷がついても、それに気づかへんくらい。
鶴の兄さんが言っとった。
“敵の攻撃を避けなかった”って。
うちは放っておけば治るからまだええよ。
でも燭台の兄さんは違う。
放っておけば死んでしまう。
さっき穢れを清めていた時だって、
本当はあれ、かなり危なかった。
幽世に迷い込んでから感覚が無かったって事は、
瘴気で穢れを知らない間にも
受けとってたって事やろ。
そんな…………
『…………そない、寂しい事………
言わんといてよ………』
燭台「妖魔君？」
『兄さん気づいてあらへんけど、
感覚だけで無く、兄さんは心まで………
まるで刀やで？』
触覚が無いって言っとったけど、
多分正確には“痛み”が分からへんようになっとる。
冷たい黄昏色の瞳…………怖いくらい綺麗なんに、
寂しい瞳をしとる刀剣。
付喪神は妖魔とは違って人に最も寄っとる神。
だから人と同じような心がある。
でも兄さんは………何かを失ったような、
虚無しか感じへん。
『(………いつ見ても、悲しいな)』
Aside〜end〜
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2020年7月6日 12時
