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端末の画面を暗い瞳で見つめる。そこに映るのはある一つの電話番号だった。
「今かけても迷惑だな。時間遅いしあんな事言っちゃったし」
9月でもまだ猛暑。暦の上では秋だがまだまだ寝苦しい夜が続く。それなのに快適な空間をもたらしてくれる冷房の風も今だけは肌寒く感じた。
このまま身体が冷えて風邪でも引いてしまえばいい、と思う。ここの寮に窃盗目的の犯罪者でも侵入しないかな、とか今年最強クラスの台風が突発的に発生しないかな、とか。非現実的すぎるにも程があるが学校に行かなくてもよくなるならもう何だっていい。
「このまま水風呂に浸かって髪の毛を乾かさずに寝たら流石に風邪引くんじゃ?」
そんなこと考えるなんて相当な馬鹿だな...なんて自嘲していたら突然手の内の端末が震えた。気を抜いていたため驚いて素っ頓狂な声が出てしまった。
「あーもう誰...はいはいどうしたの?」
改めて画面を確認すると先ほど見ていた電話番号とは違う番号からの着信だった。黒髪アヒル口のあの男。
[お、起きてたか]
「起きてたよ、そっちこそ起きてたんだね。で、こんな時間にどうしたの?」
[お前さ、夏休みに俺の家来たときにハンカチ忘れてってんぞ。ベッドの下に入り込んでて今日まで気付かなかったけど]
「あー...なくなったと思ったら。ありがとね。すぐに必要なわけじゃないから持っといて」
[おー。...なぁ、なんかあっただろ]
もうさぁ、声だけで分かるとか妖怪並みに凄いよねこの人。最早妖怪なの?
「失恋したのー」
[...もうその手には引っかからねーぞ]
「やだな本当だよ。傷心中の乙女はデリケートなんだから優しく扱ってよ」
中学のときもこうして言ったっけか。我ながら雑すぎる躱し方だと思う。恋愛なんてしてる暇ないしね、と心の中で言った記憶がある。まあ今も恋愛してる暇はこれっぽっちもない。
[わかったわかった、デリケートに扱ってやるから今週の日曜日空けとけよ]
「は?ちょーーー」
ツーツーという音と通話終了の文字。
あのアヒル勝手に約束を取り付けて勝手に切りやがった...。何だっていうんだ一体。日曜...とりあえず空いてるからいいけどさぁ。
気に入って買った壁掛けのカレンダー。特に何も予定がないから書くこともなく新品同様真っ白でなんだか可哀想だ。そしてそんなカレンダーを見てふと思い出した。
「日曜の前に私が考えなくちゃいけない事...」
日曜云々より明日の方が私にとっては問題である。
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咲弥(プロフ) - この作品面白すぎるんで、早く続きが見たいです!待ってます!!!! (2021年8月22日 1時) (レス) id: 7ba3ab4f3e (このIDを非表示/違反報告)
青椿(プロフ) - 初めまして!青椿です。小説、読ませて頂きました。面白かったです!続きが、楽しみです!更新、無理しない程度に頑張ってください! (2017年7月16日 12時) (レス) id: 3c821da097 (このIDを非表示/違反報告)
ruka777(プロフ) - そう言って頂けるととても嬉しいです(*^ω^*)これからも楽しみにしています! (2016年12月29日 2時) (レス) id: 374598d890 (このIDを非表示/違反報告)
優生(プロフ) - ruka777さん» コメントありがとうございます!直接応援のお言葉を頂ける機会はなかなかないのでとても嬉しかったです! (2016年12月29日 2時) (レス) id: 4ab937d4f3 (このIDを非表示/違反報告)
ruka777(プロフ) - 更新頑張ってください(*≧∀≦*)応援してます! (2016年12月23日 10時) (レス) id: 374598d890 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鳴宮 汀 | 作成日時:2016年5月8日 1時