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「懐かしいな、ここ」


何の変哲もないただの曲がり角。


「あんまりいい思い出じゃないけどね」


「あれからもう何年だ?」


「中学入学する前だから3年半くらい」


この間斎藤さんから聞いた話で一つ心当たりがあると思ったのは、ここで起こった出来事でのこと。

お互い大切にしていたものを交換する仲にあったのにも関わらず一切覚えていなかった。
なんの前触れもなく突然会いにこなくなった。
学校で起きたことは覚えているのに彼との思い出だけ抜け落ちていた。

もしかしたら、私はーーーー


「お前が事故にあったって聞いた時は本当に驚いたっけ」


「ま、ただの自転車との接触事故だった訳だけど」


「ただの、じゃねぇよ。医者も奇跡的に軽傷で済んだって言ってたんだからそうじゃなかったらやばかったってことじゃねえか」


Aが小学生でもなく中学生でもない頃、つまり中学の入学式を控えた春休みにその事故は起きた。
カーブミラーも設置されていないここでは度々軽い接触事故が起きていた。

その日、目的地に向かっている途中で件の曲がり角から飛び出したAは丁度坂を下ってきた自転車と運悪く激突した。自転車に乗っていた人が発した鼓膜を裂くような悲鳴を未だ覚えている。

打ち所が悪く病院に運び込まれてから暫く目を覚まさず、次に目を開けたのは事故の二日後だったらしい。まぁ、入院して一週間後には傷も治りあっさり退院できたのでそこまで大層な事故だった訳では無いのだが。


『奇跡的に軽傷で済みました。頭を強く打っていたので一時的な記憶障害も懸念していましたがその心配もないようですね』


目覚めてからは自分の名前や物の名前などを答える記憶障害の判断をするテストを受け、正常だという安堵するはずの医者の言葉をなんとも言えない喪失感に襲われながら聞いていた。
確かに自分の記憶で何も矛盾したところはない。最近小学校を卒業したことや友達だった子に裏切られたことも覚えてる。忘れてることなんて何もない......筈なんだ。なのに何か大切なものを失ってしまった気がしてしばらく胸のあたりがモヤモヤしていた。


退院してからもその喪失感は続いた。そういえばその頃だ、見覚えのないネックレスを部屋で見つけたのは。気まぐれで事故にあった場所に行ってみるとまた新たな疑問が生まれた。

私は一体どこに向かおうとしていたんだろうか。

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咲弥(プロフ) - この作品面白すぎるんで、早く続きが見たいです!待ってます!!!! (2021年8月22日 1時) (レス) id: 7ba3ab4f3e (このIDを非表示/違反報告)
青椿(プロフ) - 初めまして!青椿です。小説、読ませて頂きました。面白かったです!続きが、楽しみです!更新、無理しない程度に頑張ってください! (2017年7月16日 12時) (レス) id: 3c821da097 (このIDを非表示/違反報告)
ruka777(プロフ) - そう言って頂けるととても嬉しいです(*^ω^*)これからも楽しみにしています! (2016年12月29日 2時) (レス) id: 374598d890 (このIDを非表示/違反報告)
優生(プロフ) - ruka777さん» コメントありがとうございます!直接応援のお言葉を頂ける機会はなかなかないのでとても嬉しかったです! (2016年12月29日 2時) (レス) id: 4ab937d4f3 (このIDを非表示/違反報告)
ruka777(プロフ) - 更新頑張ってください(*≧∀≦*)応援してます! (2016年12月23日 10時) (レス) id: 374598d890 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:鳴宮 汀 | 作成日時:2016年5月8日 1時

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