ep339 ページ42
「刀を下げて」
苦しそうな表情のまま信女ではなく彼女の刀を見つめるA。
下げろ、と言いつつどこかでこのまま斬り捨てられることを望んでいるような眼をしていた。
それを目の当たりにしてもなお責めるようなことは、信女には出来なかった。
ゆっくりと刀を下げて行き場のなくなった感情を抱えたまま項垂れる。
静まり返ったその場で、彼女の手からガシャン…と刀が滑り落ちる音が響いた。
「……信女さん、肩貸します。取り敢えず手当てしに行きましょう」
一部始終を見守っていたテツがそう言って信女を医務室へと連れて行った。
その背中をゆっくりと見送ったAは残った面々を振り返る。
「君達も早く医務室へ」
その言葉でのろのろと1人、また1人と去っていく。
だが当のAはその場から一歩も動こうとしなかった。
「Aさん、行かねェんですかィ?……その手」
未だにぽたりぽたりと血が垂れる彼女の手に眼差しを注ぎながら沖田が尋ねる。
「あぁ……見た目ほど切れてないから」
そう言って床に転がった信女の刀に視線を注ぐ。敵を斬り伏せ、刃こぼれした刀。大して切れる訳もなかった。
「それより沖田君の方が重傷でしょ。早く行きな」
「…………じゃあ先に行ってまさァ」
少し気がかりそうな表情のまま去っていく沖田を見送り、Aは結局なぜかその場に残った2人に眉を顰めた。
「銀時、ヅラ……君らも早く行きなよ。何なら指折りの重傷者なんだから」
だがそう言われた銀時は黙ったままAをじっと見つめていた。
そしてゆっくりと彼女に近づくと
「傷見せろ」
そう言った。
Aは「ほら」と言って自分の手の平を広げて見せる。
「大したことないでしょ、こんなの後で止血しとけば——」
「違ぇ。腹の方だ」
Aは思わず目を見開いて銀時の顔を見上げる。そして同時に、確信に満ちたその眼はどうにも誤魔化しようがないと悟った。
彼女が黙って身をよじると、その下からべたりと壁に張り付いた血痕があらわになる。
「……なんで分かっちゃうかな」
Aは困ったように眉を下げて力無く笑った。
「腐れ縁舐めんな。……いつやられた?」
「……分かんない。森の中走ってた時かもしれないし、そのあと刀振り回してた時かもしれないし……。気付いたら血出てた」
どうしようもないとでも言いたげに銀時と桂は目を合わせた。
838人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ギラッフェ(プロフ) - ろこもこさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて感謝しかありません。前作も必ず完結させるつもりですので長い目で見ていてくださると嬉しいです。これからもよろしくお願いします! (2022年1月18日 23時) (レス) id: 3534028906 (このIDを非表示/違反報告)
ろこもこ(プロフ) - 初めてコメントさせて頂きます!前作の最終兵器に宜しく からずっとファンです…!ギラッフェさんの小説は人物や世界観が作り込まれ、何より愛が感じられて大好きです!!これからも応援しています! (2022年1月18日 15時) (レス) id: c1accee4d9 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - むーさん» そう言っていただけて嬉しいです!ゆるゆる更新してますがどうぞこれからも宜しくおねがいします (2022年1月11日 19時) (レス) id: 3534028906 (このIDを非表示/違反報告)
むー - いつもギラッフェさんの語彙力が凄すぎて本当に尊敬します…これからも頑張ってください! (2022年1月10日 21時) (レス) id: c41de03eef (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - ゆりりんさん» コメントありがとうございます!そんなふうに想ってもらっていて感謝しかありません。これからもよろしくお願いします! (2021年11月3日 10時) (レス) id: 26330a8285 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ギラッフェ | 作成日時:2021年4月22日 16時