ep340 ページ43
「……そんな顔しないでよ。大丈夫だから」
銀時と桂の顔を見てそう笑うA。
しかしその笑みはいつもの彼女からは想像もできないほど不自然で引き攣っていた。
これまでいつ何時も仮面のように崩れなかった笑みが、あまりにも人間らしく震えていた。
だが当の本人は笑えているつもりなのだから2人は余計に何も言えない。
「……取り敢えずお前の上着貸せ。傷口縛るぞ」
そう言った銀時にAが上着を脱いで手渡す。その脇腹にはざっくりと刀で切り裂かれた痕が見え、今も血が滲み出していた。
銀時は眉を顰めながらその腹に上着を巻きつけて縛り上げる。
「——っ!」
一瞬、痛みに息を詰まらせたAだったがすぐに唇を噛み締めてそれを押し殺す。
「……痛かったら言え。こんなことで我慢すんな」
俯いたまま、細い肩を石のように硬くする彼女にそう言って
「ん、一応治療するまではもつだろ。行くぞ」
と離れようとした時、
Aがグイと銀時の袖を掴んで引き寄せ——
その肩に顔を埋めた。
「……」
突然のことに呆気に取られていた銀時はAの肩が小さく震えていることに気がつく。
——……泣いている……?
それが余計に銀時を驚かせた。
この橘Aという人間は、滅多なこともない限り他人の前で涙を流さないし、それを悟られるような素振りすら隠そうとする。
ましてや誰かの肩を借りて涙を流すことなんて、無い。
……いや、厳密に言えばあの紫頭を除いての話だ。
幼い頃のAは何かあると固く俯いたまま高杉の袖を引っ張り、高杉はその度に何かを察したような表情で彼女を宥めていた。
腐れ縁と言っても、あの頃の2人には自分や桂が入り込むような隙間が無かったことを銀時は思い出す。
それだけ橘Aにとって高杉晋助は他とは違う存在だったのだろう。
そんな彼女が今、自分の肩に埋まるように涙を流しているのは、何とも信じがたかった。
恐る恐るAの頭に手を置く。
すると彼女は押し殺していた嗚咽を漏らしながら一層肩を震わせた。
「…………痛い」
絞り出すようなAの言葉に銀時は静かに「あぁ」とだけ返し、頭を撫でた。
「……全然……大丈夫じゃ、ない……痛いよ、銀時」
泣きながら言った彼女の言葉は決して切り裂かれた傷のことだけを言っているのではないのだろうと、静かにそう思った。
838人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ギラッフェ(プロフ) - ろこもこさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて感謝しかありません。前作も必ず完結させるつもりですので長い目で見ていてくださると嬉しいです。これからもよろしくお願いします! (2022年1月18日 23時) (レス) id: 3534028906 (このIDを非表示/違反報告)
ろこもこ(プロフ) - 初めてコメントさせて頂きます!前作の最終兵器に宜しく からずっとファンです…!ギラッフェさんの小説は人物や世界観が作り込まれ、何より愛が感じられて大好きです!!これからも応援しています! (2022年1月18日 15時) (レス) id: c1accee4d9 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - むーさん» そう言っていただけて嬉しいです!ゆるゆる更新してますがどうぞこれからも宜しくおねがいします (2022年1月11日 19時) (レス) id: 3534028906 (このIDを非表示/違反報告)
むー - いつもギラッフェさんの語彙力が凄すぎて本当に尊敬します…これからも頑張ってください! (2022年1月10日 21時) (レス) id: c41de03eef (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - ゆりりんさん» コメントありがとうございます!そんなふうに想ってもらっていて感謝しかありません。これからもよろしくお願いします! (2021年11月3日 10時) (レス) id: 26330a8285 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ギラッフェ | 作成日時:2021年4月22日 16時