ep343 ページ46
信女ちゃんが開け放ったまま去っていった扉から光が差し込む。
うっすらとしたその光は手紙を読むには十分すぎる明るさだった。
言い訳はできない、さぁ読めよとばかりに手のひらに握られている手紙。
だが私もついさっき救えなかった人の綴った手紙なんて重くて読めやしないのだ。
紙切れであるはずのこの手紙は私にとってはまるで船の錨のように重く冷たかった。
そう、全てが予想外だったわけじゃない。
作戦を実行すれば犠牲は避けられないし、たとえ私達が無事に生き残ったとしてももう元には戻れない。
真選組、見廻組どちらも江戸にはいられない
わかってた。
でも、
それでも
松平長官や近藤局長が罪人として処刑されるのも、そのせいで真選組の皆に決して消えない傷が残るのも……
絶対に許せなかった。
……ただの我儘で、多くの犠牲と等価交換で自分の守りたい人達だけ守った。
「参謀云々の前に人間としてどうなんだよ」
自問自答しながら見つめた件の手紙。
読む勇気なんてどう振り絞っても出てこなかったけれど、むしろそれが道理だ。
これは罰……。そう思って封を開けた。
始まりはなんとも彼らしい文面だった
“今貴女がどんな表情でこれを読んでいるのかが目に浮かびますね
さしずめ今回の結果を貴女一人の失態だと責め、要らぬ罪悪感で勝手に押し潰されているのでしょう
えぇ、見ていなくとも分かりますよ。エリートですから”
軽口しか並べられていないその文面に、何故か涙が流れた。
“なので一つ貴女に説教です。
自分を責めるなとは言いません。
そんな言葉を素直に受け入れられるような人間ならば、貴女はそもそも真選組の参謀にも見廻組の参謀にもならなかったでしょうから”
見透かしているような言葉の一つ一つに、何故か安心している自分がいた。
“ですがこれだけは言っておきましょう。
たとえ貴女が全員の死を背負って生きていく覚悟を決めていたとしても、私だけは願い下げです”
頬を打たれたような感覚だった。
“誰もが自分の死を貴女に背負われたいと思っているわけではありません。そもそも私には背負われてやる義理もありません。
だから貴女も私など背負わず歩けばよいのです。そうすれば、幾分か軽くなって歩きやすいでしょう”
脳裏に浮かぶのは彼の得意げな顔。
“歩き続けなさい”
最後のその文字は視界が滲んでよく見えなかったけど
たぶんそう書いてあったんだと思う。
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ギラッフェ(プロフ) - ろこもこさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて感謝しかありません。前作も必ず完結させるつもりですので長い目で見ていてくださると嬉しいです。これからもよろしくお願いします! (2022年1月18日 23時) (レス) id: 3534028906 (このIDを非表示/違反報告)
ろこもこ(プロフ) - 初めてコメントさせて頂きます!前作の最終兵器に宜しく からずっとファンです…!ギラッフェさんの小説は人物や世界観が作り込まれ、何より愛が感じられて大好きです!!これからも応援しています! (2022年1月18日 15時) (レス) id: c1accee4d9 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - むーさん» そう言っていただけて嬉しいです!ゆるゆる更新してますがどうぞこれからも宜しくおねがいします (2022年1月11日 19時) (レス) id: 3534028906 (このIDを非表示/違反報告)
むー - いつもギラッフェさんの語彙力が凄すぎて本当に尊敬します…これからも頑張ってください! (2022年1月10日 21時) (レス) id: c41de03eef (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - ゆりりんさん» コメントありがとうございます!そんなふうに想ってもらっていて感謝しかありません。これからもよろしくお願いします! (2021年11月3日 10時) (レス) id: 26330a8285 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2021年4月22日 16時