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Continuation1 ページ23

生きて、そしてまた…会おうよ




冬が来た。

野原は一層色を無くし、ちょっと前まで煩かった虫たちの声ももう聞こえない。
クリスマスも終わり、正月も連休が終ろうとしている頃、僕は探偵社の扉を開けた。

休みだから誰も居ない、と気を抜いていたが…なんとまぁ、其処には机に突っ伏して寝ている太宰が居た。
パチパチと瞬きを繰り返しながら、彼に近づく。どうして、彼がここに?
彼の傍により、その手のひらの中のものを見れば不意にその答えを見つける事が出来た。

桜の花びらを閉じた栞。
思い出してみれば、ここは彼女…佐藤という事務員の机だったか。

大切な人が消えた悲しみを、彼も同じくらい味わっているのだ。
頬に涙の後を残すくらいには。


「太宰」

「ん、ぁ……ら、乱歩さん!?」

僕が声をかけると、慌てた様に起き上がる彼。
目を白黒させ「どうしてここに!?」と聞いてくる。彼のこの表情は、何だか珍しくってつい笑ってしまう。

「ちょっと野暮用というやつだよ」

僕がそう返すと、彼は「はぁ…」と納得の行かない返事をした。

彼のいる所から多少離れた場所……今でも誰か使っているのではと思うほど生活感が漂うその机は、僕の想い人の机だった。
不意に色々思い出して、涙が零れそうになるが、寸での所で踏みとどまる。…僕ばかり泣いていても彼女に心配を掛けてしまうかもしれないから。
引き出しの一つを開けると、中には僕が探していた赤いマフラーが入っていた。
これは、過去の彼女が好んで身にまとっていたものだ。


僕がそれを胸に抱くと、太宰の息の飲む音が聞こえる。
…この後輩は、人の気持ちが分かりすぎていけない。

彼にも色々世話になったものだ。
あの時、彼が来なかったら僕は火に包まれ燃え尽きていただろう。
彼女の生きて、という願いにも従えなかった。…今となってはそれでも良かったと思えてしまうというのも事実だが。



用事はマフラーを見つける事だったので、それを自分に巻きつければ、いそいそと探偵社の扉を開ける。…ほんのちょっと、気持ちが落ち着いた今だからこそ、行きたい所があったんだ。

半歩進み、扉を閉めようとした所で、僕は思い出した様に振り返る。
先程まで、空気を読んで黙っていた彼に、一言言っておかねばならない事があったんだ。


「太宰、」

「え、あ、はい」

「彼女、今でも好きです、だってさ」

「へ?」

「伝言は伝えたからな」


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設定タグ:文スト , 悲しい , 江戸川乱歩   
作品ジャンル:泣ける話
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カナ - 夢小説に自分の伝えたいことをこんなにも自然に綺麗に入れていてとても素敵だなと思いました。これから感謝とかをきちんと伝えていきたいと思いました。ありがとうございます。 (2021年11月23日 16時) (レス) @page29 id: 35e821d5d5 (このIDを非表示/違反報告)
ぬん太郎 - 感動しました。最後ボロ泣きでした。死ぬと自分も相手も何も出来なくなりますもんね。ちゃんと周りの人に感謝とか伝えていこうと思います。佐藤さん出てきて嬉しかったです。最後の太宰さんも感動! (2017年1月13日 18時) (レス) id: 0f5e4549d3 (このIDを非表示/違反報告)
千秋 - とても感動しました。青春定理の作者と同一人物とは思えないしんみり……( 死ぬって何も私達には分からないですけどやっぱり、究極の別れみたいなんだな……と思いました。とても素晴らしかったです。 (2017年1月4日 23時) (レス) id: b5473cb104 (このIDを非表示/違反報告)
東條にこ(プロフ) - 太宰さんと佐藤さんの話も以前読んでいたものです。 最後まで涙が止まりません。いろんな意味で本当にありがとうございました! (2017年1月3日 20時) (レス) id: db321f67f6 (このIDを非表示/違反報告)
HANA - 涙が止まりません(・・,)。なくなった物はなくなってから大切だって気づく。良い言葉です。どちらの気持ちが理解できてとても感動しました。ありがとうございます。 (2017年1月3日 19時) (レス) id: 09909c1fdf (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:棒付きキャンディと愉快な仲間達 | 作成日時:2017年1月2日 11時

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