【D.gray-man】 Sorry but Goodbye -Terzo-

「そういえば私もう人見知りしないなぁ……」 ページ46

久しぶりに眠れない夜を過ごした。
眠気は一向にやってこず、ただ同じ考えばかり頭の中でぐるぐると回っていた。
まるで私をからかうように。嘲笑うように。

「ふぁ……」

覚束ない足取りで、私は洗面所へと向かう。
口元には大きな欠伸を隠すための手があって、欠伸のせいでじわりと涙が滲んだ。

体は眠いと言っているけど、私の脳はいまだにしっかり覚めたままだ。
人間案外一日まったく寝なくても平気なようだ。
ただ体力は持ちそうにないけど。

「んっ……ちべたい」

ぱしゃりと冷水を顔にかけ、憂鬱さを一気に振い落す。
そして何度かほっぺを叩いてみれば、ようやく私は覚醒した。
いつも通りの笑みを浮かべて、私は鏡の中の自分を見つめ頷いた。

「そういえば私もう人見知りしないなぁ……」

クロウリーさんと話しかけるときだって、別段平気だった気がする。
カイトの場合は子供だったし、特別かな？
慣れって本当に怖い。

「……」

だからいつか、私が二重人格だってことも慣れるはずだ。
……慣れて、普通のことみたいに扱えるはずだ。
もう二度と、こんな恐怖を抱かなくてよくなるはずだ。
……慣れさえ、すれば。

慣れは、怖い。

「……Aであるか？」

洗面所から出ると嫌に身長の高い男に出くわした。
黒のマントを羽織っているその男は、「噂をすれば影」のことわざ通り、クロウリーさんで。

「クロウリーさん！お久しぶりです！」
「あぁ、久しぶりであるな！長期任務から昨日帰ってきたばかりなのだ」
「え、昨日って……」
「昨日の夜だ。 そのまま報告しに行って、遅いので寝たのである」

そう揚々と告げるクロウリーさんに私は胸を撫で下ろす。
どうやら私の暴走の件はまだ聞かされていないみたいだ。
どうせいずれ聞くだろうけど、少なくともその現場に居合わせなかっただけいい。

彼にとっても、そして特に私にとっても……。

「今回の長期任務、何か得たものあったの？」
「イノセンスを一つ奪還してきたのである。 大量のAKUMAがいたので、全てを破壊するのに時間がかかった」

へぇ、と私は相槌を打つ。
ふとクロウリーさんの視線を感じて私は首を傾げた。
視線の先を追えば、それは私の肩へ向けられていた。

「……Aはいつも怪我しているな……」
「あ、あぁ……これは、」

正直ワザとで、と言おうとした。
だけどそれを言う前に、クロウリーさんは続ける、
あの優しい笑みを浮かべて、

「……女の子なのだからもう少し気を付けるであるよ」

「……本当、ですか？」→←「あの子はこれから、どうするの？」

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