【D.gray-man】 Sorry but Goodbye -Terzo-

「……殺してやる」 ページ14

ゆるりと立ち上がる。
じっとラビが私を見つめているのを、見なくても理解できた。
だけどそんな視線さえも気にならないほど、私は目の前の男を目に焼き付ける。

青の衣装、ありきたりな車掌さんの格好。
だけど一般人だと思うな。

こいつは、根元から腐っていやがる。

「……殺してやる」

唇から紡ぎ出された呪いの言葉。
地を這うような低い声に、こんな声を出せるのだなと改めて感心する。

両腕の袖口から吐き出すように滑り出てきたナイフを受け止め、握りしめる。
ぎり、と力強く歯を噛みしめながらナイフを手の中でフリップさせた。

そしてそのまま顔の前で両腕をクロスさせる。
腕の隙間から敵を見据える。

敵は既に笑みを浮かべ、銃を構えていた。
余裕の笑みだ。
どうせナイフでは銃に勝てないと思っているのだろう。
先程の戦いを見たのか、見たとしてもこんなに小さい銃弾ならば切れないと高を括っているのだろうか。
だけどこのナイフは、銃弾特化。

今一度腕をおろし、前を見据えた。
途端に聞こえる銃声音。
それは私の肩にいともたやすく直撃した。

「A！何やってるんさ！」

簡単に避けれたはずのソレ。
それを動きもせず甘んじて受けた私に対し、ラビは叫び声をあげた。
肩が焼けるように熱い。
このくらいの痛みでは私を揺らがせることはできないが、それでも腕は動かしにくくなってしまった。

だけど彼にはこの戦いは干渉させない。
エクソシストなし、イノセンスを使わずに、この男を仕留めて見せる。

ゆらり、と体を動かす。
二発目が発射される音を、耳で聞いた。
そのまま、足に力を込める。

――……なんで私はこんなに冷静なのだろう。
どうして私、こんなに血が騒いでいるんだろう。

全ての動きがスローモーションになっている。
体が自由に動かない。鈍い。少しの動きでさえ重い。
私の髪の毛が、目の前をゆっくりと舞っていった。

体全身が熱い。
まるで内部が燃えているようだ。
撃たれた肩から熱湯を注がれているようだ。
熱い、熱い。

でも嫌いじゃない、鬱陶しくない高揚感。
歪んだ笑みを浮かべていることを、自分でも気づかないでいた。
苦しいほどの熱が、体内の熱が、体の中から抜け出そうと躍起になっている。
零れる、熱い思い。

少しだけ分かってきた。
これは、アナタなんだね。

床を踏みしめる感触が、鮮明に足の裏に伝わってくる。
ナイフをゆっくりと構えた。

スノーレディ、アナタはまだ、私の中に残っていたんだね。

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